最後に孫家の墓所に行ってみた。墓所では地元職員や記者らしき人間が待ち構えていた。私も様々な取材をしてきたが、こんな“VIP扱い”されたのは初めてである。しばらくすると黒塗りのハイヤーまで到着し、ますます芝居じみてきた。車から下りてきた男は、ハンナラ党(現セヌリ党) の地元区長だという。

「私は孫社長の故郷が大邱と知って以来、地域の人と孫家の墓所の草むしりをしている。彼は世界的人物だが、どんな有名人でも故郷は大切だ。ぜひ彼の故郷訪問を実現させてくれないか」

 これほど露骨な有名人へのすり寄りは、いっそ微笑ましかった。だが、翌日の大邱の新聞に、「孫正義会長取材陣、大邱到着」という仰々しい見出しが付けられたのには絶句した。

 記事には、「大邱市では、孫会長が故郷を訪問する場合、曾祖父の墓から大邱空港までの道路を『正義路』と名付け、盛大に歓迎する」といった孫の遠縁の言葉まで紹介されていた。

 田舎政治家らしいパフォーマンスといい、「正義路」という臆面のないネーミングといい、冷淡なソウルの反応と対照的な熱の入れようである。これだけのラブコールがあれば、孫の故郷訪問も近いのではないか。そのときは一瞬そう思った。

 帰国後に孫正義の父・三憲にこの話をすると、「どうせ金くれちゅうこっちゃろが」とニベもなかった。三憲が、パチンコ業で財をなしたとき、故郷から数千万円の無心があったという。三憲の口ぶりからは、韓国人に在日がどんな辛い思いをして金を稼いできたかわかるか、という口惜しさがストレートに伝わってきた。孫正義の故郷訪問に対しても、大邱の地元企業への投資を期待していた可能性が高い。

 これだから朝鮮民族にはかなわない。別に悪口でいっているわけではない。孫のことをあるときはクールに、あるときは故郷の英雄のように祭り上げ、その裏でこっそり金をせびる。

 これが中国大陸にへばりつき、海のすぐ向こうに日本という経済大国を望むという地政学的な悪条件の下で、数多の試練を乗り越えてきた彼らの強さの原動力となっているのだろう。

 ただ、一点気になるのは、彼らが僑胞(キョッポ、*)の歩んだ苦難に無関心な点である。アジア一の経営者となった孫正義の光の部分ばかり注目し、その影を見ようとしないのは、虫が良すぎる。歴史を忘れた民族は、いつかしっぺ返しにあうことを肝に銘じなければならない。

 この教訓は、無論、日本と日本人も例外ではない。

(*在外韓国人の韓国側の呼び方)

※SAPIO2016年11月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
水原一平容疑者は現在どこにいるのだろうか(時事通信フォト)
大谷翔平に“口裏合わせ”懇願で水原一平容疑者への同情論は消滅 それでもくすぶるネットの「大谷批判」の根拠
NEWSポストセブン
大久保佳代子 都内一等地に1億5000万円近くのマンション購入、同居相手は誰か 本人は「50才になってからモテてる」と実感
大久保佳代子 都内一等地に1億5000万円近くのマンション購入、同居相手は誰か 本人は「50才になってからモテてる」と実感
女性セブン
宗田理先生
《『ぼくらの七日間戦争』宗田理さん95歳死去》10日前、最期のインタビューで語っていたこと「戦争反対」の信念
NEWSポストセブン
焼損遺体遺棄を受けて、栃木県警の捜査一課が捜査を進めている
「両手には結束バンド、顔には粘着テープが……」「電波も届かない山奥」栃木県・全身焼損死体遺棄 第一発見者は「マネキンのようなものが燃えている」
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
ムキムキボディを披露した藤澤五月(Xより)
《ムキムキ筋肉美に思わぬ誤算》グラビア依頼殺到のロコ・ソラーレ藤澤五月選手「すべてお断り」の決断背景
NEWSポストセブン
(写真/時事通信フォト)
大谷翔平はプライベートな通信記録まで捜査当局に調べられたか 水原一平容疑者の“あまりにも罪深い”裏切り行為
NEWSポストセブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン
大谷翔平を待ち受ける試練(Getty Images)
【全文公開】大谷翔平、ハワイで計画する25億円リゾート別荘は“規格外” 不動産売買を目的とした会社「デコピン社」の役員欄には真美子さんの名前なし
女性セブン
眞子さんと小室氏の今後は(写真は3月、22時を回る頃の2人)
小室圭さん・眞子さん夫妻、新居は“1LDK・40平米”の慎ましさ かつて暮らした秋篠宮邸との激しいギャップ「周囲に相談して決めたとは思えない」の声
女性セブン
いなば食品の社長(時事通信フォト)
いなば食品の入社辞退者が明かした「お詫びの品」はツナ缶 会社は「ボロ家ハラスメント」報道に反論 “給料3万減った”は「事実誤認」 
NEWSポストセブン