将棋界で最も格が高いとされる棋戦・竜王戦。この頂上決戦の挑戦者となるはずだった三浦弘行九段(42)がスマホで“カンニング”していたという疑惑がメディアを賑わせている。だがその裏側では、棋界のメインスポンサーである大手新聞社の熾烈な争いが起きていた。
〈三浦九段、竜王戦出場停止、将棋連盟、ソフト使用疑い聴取〉
これは、朝日新聞が最初に「将棋カンニング疑惑」を報じた際の見出しだ。三浦九段は対局中に席を離れ、スマホ搭載の将棋ソフトを使ってカンニングした疑いで日本将棋連盟(以下、連盟)から今年12月末までの出場停止処分を受けた。現タイトル保持者の渡辺明竜王(32)が『週刊文春』で「間違いなく“クロ”」と実名告発したことで、騒動はさらに大きくなった。
火付け役となった朝日は10月13日の社会面で〈タイトル戦の挑戦者の変更は極めて異例〉と大きく取り上げ、事の重大さに言及した。
さらに翌14日の紙面でも、〈スマホ問題 将棋界から疑念〉のタイトルで続報。三浦九段と親交があるという匿名の棋士が、〈将棋界にとって大きな汚点ができた〉と厳しく総括した。各メディアは朝日に追随し、「将棋カンニング疑惑」を大きく報じた。
ところが唯一、他紙と異なるトーンの記事を掲載したのが、販売部数トップの読売新聞である。
朝日が第一報を打った同日、読売も騒動を報じたが扱いは小さく、タイトルも〈竜王戦の挑戦者変更 三浦九段出場停止 丸山九段繰り上げ〉というもの。記事中でも「スマホ」というキーワードやカンニング疑惑の説明はなく、「対局中に不必要と見られる離席が多い」と指摘された三浦九段が竜王戦への出場辞退の意向を示し、連盟が出場停止を決めたとだけ報じた。文化面を担当する他紙の記者がいう。
「その後も、朝日は疑惑を追及し続け、22日からは『三浦がカンニングしていた』と渡辺竜王が告発した10月3日の“疑惑の順位戦”の棋譜を掲載した。それとは対照的に、読売の報道は静かだった」
元読売新聞社会部記者でジャーナリストの大谷昭宏氏も不可解さを認める。
「確かに今回、読売は不自然なくらいこの件をほとんど報じていません」