◆これは10年前の“意趣返し”だ
なぜ、読売は“静観”を決め込んだのか。答えは明快である。読売は竜王戦のメインスポンサーなのだ。連盟関係者が解説する。
「騒動が大事になれば、自らが主催する竜王戦にキズをつけかねない。そうなれば大きな損害を被るため、大々的に報じなかったのでしょう。事前に読売と連盟で協議があったはずです」
連盟は「お答えできません」(広報課)というが、こうした背景には、タイトル戦をめぐる連盟と新聞社の蜜月の関係がある。
「タイトル戦のほとんどは大手新聞社がスポンサーにつくことで成り立っています。たとえば、名人戦は毎日・朝日の共催、王将戦はスポニチ・毎日の共催、王座戦が日経、棋聖戦が産経。なかでも読売が主催する竜王戦の優勝者賞金は4320万円に達し、7つあるタイトル戦のうち最大の賞金額であり、全タイトル戦の頂点とされます」(同前)
将棋が国民的な娯楽だった時代、大手新聞社は紙面に自社が主催するタイトル戦の結果を掲載することで、権威を示してきた。
読売が「序列1位」に君臨する一方、長く煮え湯を飲まされたのが朝日だった。前述の通り、朝日は竜王戦と並ぶ格式を誇る「名人戦」のスポンサーだが、こちらは毎日新聞との「共催」。この共催を巡っても、すったもんだがあったと前出の連盟関係者が明かす。
「もともと名人戦は毎日の単独スポンサーでしたが、2006年に連盟がより高額な契約料を求めて、当時主催するタイトル戦のなかった“新参者”の朝日に乗り換えようとした。この時はメンツを潰された毎日が激怒し、騒動の末、朝日と毎日の共催に落ち着きました」