国際情報誌SAPIOの人気連載『日本の芸能を旅する』第七回はサーカス編。ノンフィクション作家・上原善広氏が木下大サーカスの木下唯志社長のもとを訪ねた。今の社員は日本人で100人、外国人30人ほど。逆ピラビッド型の経営を目指して、社長を含めて社員はみな平等なのだという。木下社長にサーカスに込めた工夫や、動物にまつわる意外な話を聞いた。
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私が訪ねたときは、唯志社長自らがマイクを握って入場整理をしていた。チケットも切るし、テントの掃除も率先してするという。
しかし、サーカスは移動公演だから大変だ。一年あたり四、五場所で公演をおこない、移動の際は住居代わりのコンテナ四〇棟ほどを二、三日かけて動かす大移動となる。一一四年の歴史の中で、四七都道府県すべてを回った。
「本当は半年くらい常設でやって、あとはツアーというのが理想ですが、サーカスの常設はなかなか難しい。まあ移動といっても大体やる場所は決まってきますから、四年ごとにくる大阪の花博跡地では信用も得てますからね。会場は二〇〇〇席ほどですが、これ以上増やしても駄目。サーカスの規模としてこれくらいの方が見やすいでしょう」
以前からあるショーも、常に工夫し続けている。金網の中をぐるぐる回るバイクのショーでも、以前は三周回るだけだったのが、それだけだと面白くないので、最初に女性ダンサーも入れて華やかさを出し、バイクで会場を回ったりするようになった。
「売店にキャラクター商品を置いたりして、とにかく考えられることは全てやる。日本の古典芸能も、坂綱というのを入れたりもしました。これは幸い好評をいただいています」
坂綱とは、斜めに張った綱渡り芸のことだ。日本ではしばらく途絶えていたが、いろいろな資料を元に復活。東大寺でも奉納披露された本格の芸だ。唯志社長は世界サーカス連盟大使にも任命されているから、これは世界に誇れる立派な日本のお家芸といえる。
「ボリショイと中国は国立ですから、私たちのライバルはアメリカのリング・リング・サーカス、カナダ・ケベック発祥のシルクドソレイユ、ドイツのクローネです。クローネなんかは冬の間は常設で、ここで老馬のケアハウスを運営しています」