アメリカでは政府の業務ソフトをオープンソース化する動きが進んでいる。それだけでなく、これから開発するシステムの内容を公表してベンダー(供給業者)を募集するオープンコンペティションになっている。
つまり、来年の予算はこういう分野に付くので、それに興味がある会社は手を挙げてください、という誰でも参加できる仕組みである。このため、より良いシステムが、より安いコストで開発・導入できている。役所がベンダーのITゼネコンの言いなりになっている日本とは雲泥の差だ。
本連載で何度も紹介してきたが、エストニアの「eガバメント(電子政府)」はSIMカードの中に国民IDチップを格納したスマホ1台で何でもできる。世界のどこにいても「エストニア国民」として権利を行使でき、選挙の投票や納税、年金、健康保険証、運転免許証、国家資格などの手続きから公共料金の支払いといったことまで可能である。
このエストニア型の国民データベースについては、しばしば個人情報漏洩や安全性が危惧されるが、すでに指紋、眼球の虹彩、声紋、静脈などのバイオメトリクス(生体認証)技術が進み、それを重ねると本人になりすますことは非常に難しくなっているので、何の問題もない。
むしろ他人に悪用される可能性が高い印鑑のほうがよほど危険である。日本は未だに“印鑑社会”だが、そもそも印鑑登録証明書には法的根拠がない。自分が役所に登録した印鑑と同じ印鑑だということを証明するだけだから、本人とは何の関係もないのである。したがって、もう印鑑や印鑑登録証明書というものは不要であり、バイオメトリクスさえあればリスク管理は十分なのである。
全く利便性のない現在のマイナンバーカードを、いくら政府が国民にアピールしても、普及するわけがない。このままだと、生まれながらにしてガラパゴスのマイナンバーカードは“旧世代の遺物”として博物館行きになるかもしれない。エストニアの2~3周遅れでもよいから、一から作り直すべきである。
※週刊ポスト2016年12月23日号