国内

虐待事件の親が子供を殺しても「愛していた」と語る矛盾の理由

虐待事件を引き起こすものとは?

 今年を振り返ってみると、痛ましい虐待事件が数多く起きた。2016年1月、埼玉で3才女児が「元夫に似ているからムカツク」との理由で日常的に虐待を受けた末、死亡した。女児の体は痩せ細り、顔は熱湯をかけられ焼けただれていたという。また11月には、大阪で、3才長男を山中の崖から投げ捨てたとしてヤンキー夫婦が逮捕されるなど、耳を疑うような痛ましい事件が相次いだ。

 最新著書『「鬼畜」の家』で、さまざまな虐待死事件の家庭に分け入り、取材をしたジャーナリストの石井光太さんは、虐待事件を起こした多くの親たちが、ある共通した言葉を語ることに気づいたという。

「彼らは、『子供を殺しちゃいました、でも子供を愛してました』と矛盾したことを言うんです。しかもそれを矛盾だとは彼らは全く思っていないように見えます」

 石井さんはその理由をこう語る。

「根本的な人間関係のベースがずれてしまっているからです。人間は、生きていく中でいろいろと向き合わなければいけないことがいっぱいありますよね。例えば友達とどういう関係を築くのか、その中で信頼してもらうためには何が大事なのか。あるいは困難にぶつかった時にどうやって問題解決していくのか、誰に助けを求めて、助けを求めるためには何を言わなくちゃいけないのかというようなことです。たぶん普通の親子関係であれば、子供たちは日々の生活の中でそれらの対処法を身につけていくんです。

 お母さんと言い合いになって、でも後からお母さんがごめんと謝ってくれた。そうか、お母さんというのは自分のことを考えてくれているんだって。怒っているだけじゃなくて、自分のことを考えてくれているんだってわかるわけです。そこでじゃあ自分も考えようとなって親子関係が成り立っていく。それが幼稚園に入って小学校に入ると、どんどん世界が広がっていくので、その対象が友達になっていったり、先生になっていったりするわけです」

 それはやがて大人になれば、恋人や夫にも広がっていくわけだが、事件を起こした親たちはそうした関係を築いてこられなかったのではないか、と言うのだ。

「そういう関係が築けないと当然、他者の気持ちを想像できないので、自分の感情もよくわからない。怒っているのか、悲しいのか、嬉しいのか。だからひどい虐待死事件などを引き起こしても、『子供を愛していた』と言うんです」(石井さん)

 虐待事件は、親自身が虐待を受けていたり、貧困だったり、低学歴であったり…といったことがあわせて報じられるが、そういった環境にあるすべての人が他者の感情に鈍感になり、痛ましい事件を引き起こすわけではない。それを分けるものは何なのか。石井さんはこんな例を示した。

「この間、こんな連絡があったんです。『私が16才の時に、母が4才と1才の弟と妹を殺しました。今私は小学生の子供の母になったんですが、取材してくれませんか』と。その女性は周りにはそれとなく自分の生い立ちについて伝えているんですが、その周りの人たちが彼女のことをどう思っているかを聞きたいけれど、怖くて聞けないから取材してほしいと言うんです。一方で彼女自身も年をとるにつれてどんどん母に似てくるのが恐怖でもある。気持ちの整理をしたいということなんですね。

 悲惨な家庭環境にもかかわらず、彼女がこうして生活できているのは、生まれてすぐに母に捨てられたけれど、おばあさんや親戚が愛情を注いで育ててくれた。そして今も1階に義理の両親が住んでいて、周囲には義理の両親の親戚なども住んでいるから周囲に助けられながら子育てをしているんです。だから人生枝分かれじゃないですが、周りにどんな人がいるのかどのタイミングで起きるのかということはものすごく大きい。

 そういう意味では子供を産んだから母になるわけじゃない。社会の中で母になっていくんです」(石井さん)

※女性セブン2017年1月1日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

麻薬取締法違反で逮捕された俳優の清水尋也容疑者(26)
「同棲していたのは小柄な彼女」大麻所持容疑の清水尋也容疑者“家賃15万円自宅アパート”緊迫のガサ当日「『ブーッ!』早朝、大きなクラクションが鳴った」《大家が証言》
NEWSポストセブン
当時の水原とのスタバでの交流について語ったボウヤー
「大谷翔平の名前で日本酒を売りたいんだ、どうかな」26億円を詐取した違法胴元・ボウヤーが明かす、当時の水原一平に迫っていた“大谷マネーへの触手”
NEWSポストセブン
麻薬取締法違反で逮捕された俳優の清水尋也容疑者(26)
《同居女性も容疑を認める》清水尋也容疑者(26)Hip-hopに支えられた「私生活」、関係者が語る“仕事と切り離したプライベートの顔”【大麻所持の疑いで逮捕】
NEWSポストセブン
麻薬取締法違反で逮捕された俳優の清水尋也容疑者(26)
【大麻のルールをプレゼンしていた】俳優・清水尋也容疑者が“3か月間の米ロス留学”で発表した“マリファナの法律”「本人はどこの国へ行ってもダメ」《麻薬取締法違反で逮捕》
NEWSポストセブン
サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(X、時事通信フォト)
大麻成分疑いで“ガサ入れ”があったサントリー・新浪剛史元会長の超高級港区マンション「かつては最上階にカルロス・ゴーンさんも住んでいた」
NEWSポストセブン
賭博の胴元・ボウヤーが暴露本を出版していた
大谷翔平から26億円を掠めた違法胴元・ボウヤーが“暴露本”を出版していた!「日本でも売りたい」“大谷と水原一平の真実”の章に書かれた意外な内容
NEWSポストセブン
清武英利氏がノンフィクション作品『記者は天国に行けない 反骨のジャーナリズム戦記』(文藝春秋刊)を上梓した
《出世や歳に負けるな。逃げずに書き続けよう》ノンフィクション作家・清武英利氏が語った「最後の独裁者を書いた理由」「僕は“鉱夫”でありたい」
NEWSポストセブン
ロコ・ソラーレ(時事通信フォト)
《メンバーの夫が顔面骨折の交通事故も》試練乗り越えてロコ・ソラーレがミラノ五輪日本代表決定戦に挑む、わずかなオフに過ごした「充実の夫婦時間」
NEWSポストセブン
サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(時事通信フォト)
《麻薬取締法違反の疑いでガサ入れ》サントリー新浪剛史会長「知人女性が送ってきた」「適法との認識で購入したサプリ」問題で辞任 “海外出張後にジム”多忙な中で追求していた筋肉
NEWSポストセブン
サークル活動にも精を出しているという悠仁さま(写真/共同通信社)
悠仁さまの筑波大キャンパスライフ、上級生の間では「顔がかっこいい」と話題に バドミントンサークル内で呼ばれる“あだ名”とは
週刊ポスト
『週刊ポスト』8月4日発売号で撮り下ろしグラビアに挑戦
渡邊渚さんが綴る“からっぽの夏休み”「SNSや世間のゴタゴタも全部がバカらしくなった」
NEWSポストセブン
米カリフォルニア州のバーバンク警察は連続“尻嗅ぎ犯”を逮捕した(TikTokより)
《書店で女性のお尻を嗅ぐ動画が拡散》“連続尻嗅ぎ犯” クラウダー容疑者の卑劣な犯行【日本でも社会問題“触らない痴漢”】
NEWSポストセブン