ライフ

【書評】司法制度改革は冷遇を受けた裁判官の“意趣返し”

 年末年始はじっくりと本を読む良いチャンスだが、本読みの達人が選ぶ書は何か。ノンフィクション作家の岩瀬達哉氏は、司法機能を読み解く書として『希望の裁判所 私たちはこう考える』(日本裁判官ネットワーク・編/大学図書/2500円+税)を推す。岩瀬氏が同書を解説する。

 * * *
 日本の裁判官は、長く“絶望の季節”に置かれていた。「渋々と、支部から支部へと支部巡り、四分の虫にも五分の魂」と唄いながら、秘めたる闘志を奮い立たせていたのが、本書の執筆者たちである。

「正義を実現するため」、「憲法に忠実」な判決を下したとしても、「国の重要な行政に関わる訴訟で国に不利な判断」であれば、最高裁の意向に盾突いたとして、“報復人事”にあった者が少なからずいた。

 その判決を「支持」したり、「会合で発言」した裁判官さえ、「3ないし4年毎」の人事異動で、地方の支部へ飛ばされ、東京地裁など「大都市大規模庁」には、なかなか上がってこられない。そればかりか、昇給面でも差をつけられ、同期の裁判官より給与を低く据え置かれる者もあったという。

 三権分立とはいえ、裁判所も国の機関である以上、最高裁は、個々の裁判官が一定の判断枠組みを越えることを嫌い、人事や処遇で“裁判官の意識と行動”を統制してきたのである。彼らは、しかしそんな圧力に「萎縮」することなく、一貫して「市民に開かれた司法と司法機能の強化を目指す」活動を続けてきた裁判官たちでもあった。

「21世紀の日本の司法を支える司法制度」として導入された司法制度改革も、穿った見方をすれば彼らの“意趣返し”の賜物であったともいえよう。

 裁判の迅速化のための「集中証拠調べは、『時期尚早であり、将来の課題』」とされていた時、個人的に実験を試みた裁判官が「体験的レポート」を公表。その目を見張る成果によって、数年後の民法の改正では「集中証拠調べの規定」が法律に盛り込まれたのである。

 また、冷遇を受けながらも、「4件の死刑再審無罪事件の分析」をおこなった刑事裁判官の論文が、引き金のひとつとなって、「司法に対する国民の参加の制度」として“裁判員裁判”が導入された。裁判所の歴史の裏側には、悲喜こもごものドラマが溢れ、意外なほど面白い。

※週刊ポスト2017年1月1・6日号

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン