2016年、日本の自動車業界は三菱自動車の「燃費不正問題」が大きな問題となり、クルマの性能や信頼を揺るがす1年となった。だが、その一方で日本車の持つ付加価値や進化を感じさせる新型車も数多く登場した。
自動車ジャーナリストの井元康一郎氏に、今年際立った国産車BEST3を挙げてもらった。
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クルマ離れが進む一方の日本の自動車市場。マスメディアでも話題の中心として取り上げられる機会が少なくなって久しいため、さっぱり動きがなかったように感じられるが、2016年を振り返ってみると、地味にいろいろな新型車や追加モデルが登場していることがわかる。
トヨタの小型クロスオーバーSUV「CH-R」、ホンダの小型ミニバン「フリード」、半自動運転システム「プロドライブ」を実装した日産のミニバン「セレナ」等々、また新エネルギー車でもホンダが燃料電池車「クラリティフューエルセル」を登場させるなど、結構より取り見取りでチョイスに迷った。その新商品群の中から、独断と偏見により、注目のトップ3をご紹介したい。
【第3位】ソリオハイブリッド(スズキ)
第3位には、前文に述べた日産セレナと散々迷った挙句、スズキの“ミニミニバン”「ソリオハイブリッド」を挙げることにした。4代目となる現行ソリオ自体が登場したのは2015年だが、今回注目したのは2016年11月末に追加されたハイブリッドだ。
ハイブリッドといえば大がかりなシステムというイメージがあるが、スズキが日本陣営のデンソーと組んで開発した新しいハイブリッドはとてもシンプルなものだ。
出力10kW(13.6ps)のモーターと容量440Whのリチウムイオン電池、単板クラッチ式の5速自動変速機を統合させたもので、標準モデルに対する重量増加はたったの40kg。ホンダの旧型「フィット」やスバルの旧型「インプレッサ」のマイルドハイブリッドが標準車に対して100kg以上も重くなっていたことと見比べると、そのシンプルさが想像できるだろう。
それでいて、JC08モード燃費は本格的なストロングハイブリッドと大して変わらないくらいに良い数値(32km/L)なのだ。
実はこの方式は、欧米の自動車メーカーや巨大部品メーカーが普通のクルマのCO2排出量を低コストで手軽に削減するための決め手として着々と準備してきた技術とほとんど同じで、電圧が欧米版の48Vに対して100Vと高いだけだ。
2016年秋にフランスのルノーが先陣を切って、マニュアル変速機とバイワイヤクラッチ(クラッチ板の動作をコンピュータが行う)の組み合わせでようやく実用化したばかり。それをスズキは変速も自動的に行うシステムとして登場させたのである。
クルマの技術といえば自動運転やEVなど“大物”に目が行きがちだが、これからもマーケットの主役は当面、フツーのクルマである。どうすればそれを、お金をかけずにより良くできるかということについての世界のトレンドを素早く察知するセンスという点については、最近のスズキは結構すごい。
もともとはしっこいメーカーなのだが、フォルクスワーゲンとの提携がこじれ、自力で生き残れないという緊張感が会社を支配したからか、近年それに磨きがかかったように感じられる。今後もいろいろ面白いものを見せてくれそうだという期待が膨らむところだ。