【第1位】インプレッサ(スバル)
2016年登場のモデルの第1位は、2位のロードスターRFと散々迷った末、10月25日に発売されたばかりのスバル「インプレッサ」を推すことにした。
ロードスターRFとは対照的に、スタイリングは地味のきわみ、エンジンや変速機などパワートレインにも新味はなく、単に車体やシャシー(サスペンションなど)を新設計しただけのクルマだ。
だが、ドライブをした時の走り味はプレミアムセグメントのレクサスを含む日本のライバルブランドすべてが新たなベンチマークにすべきと感じられるくらい良いものに仕上がっていた。ロードスターRFとはまた別の意味で、日本にこれまでなかったタイプのクルマなのである。
インプレッサの発表会で見せたスバルの自信は大変なものだった。吉永泰之社長は「これはただのモデルチェンジではない、スバルのフルモデルチェンジだ」と豪語し、走りの生命線であるシャシーの開発を担当したエンジニアは「フォルクスワーゲン『ゴルフ7』を仮想敵に見立てて開発した。並んだ自信がある」と、虚勢を張るのではなく充実感をたたえた表情で語った。
ゴルフは歴代、世界の自動車メーカーが欧州Cセグメント(ハッチバック車でおおむね全長4.2~4.5m)の新型車開発のときにベンチマークにとして取り上げられてきたモデル。日本メーカーもしょっちゅうその名を挙げるのだが、ここまで自信を持って肩を並べたと言い切るケースは皆無に等しかった。
朴訥なタイプが多いスバルのエンジニアがここまで自信を示すのだから、本当かどうか試してみたくなり、12月初旬に800kmほど2リットルAWD(4輪駆動)のモデルでツーリングをしてみた。
スバルはもともと動的質感(乗り心地やステアリング、ブレーキの操作性)については結構高い実力を持つメーカーだったのだが、新型インプレッサは旧来のスバル車と比べても次元が何段階も違うくらいのクルマに仕上がっていた。
テストカーを借りた時は新車から2200kmほど走っていた状態で、走り始めのころは固さ、ぎこちなさが出ていて「こんなもんか?」と思ったのだが、2800kmに差し掛かったあたりから各部がなじんできたのか、走り味が俄然素晴らしくなってきた。「スバルのエンジニアが自信満々の顔をしていたのはこれか」と納得するほどの良さであった。
とくに良かったのは高速道路やバイパスのクルーズで、サスペンションが道路のうねりや段差をこのうえなく滑らかに吸収した。また、ドライブの最後のほうでは豪雨に見舞われ、はからずも悪天候耐性を試すことになったが、片輪が深い水溜りを乗り越えても進路がまったくと言っていいほど乱されないという安定性の高さは驚異的で、まさに全天候ツアラーの感ありだった。
弱点はエンジンの効率が世界一級レベルに劣っており、ロングランでも燃費が15km/L台にとどまったことと、山道でのハンドリングが少々人工的なことくらいだ。
先に書いた、スバルのフルモデルチェンジという吉永社長の言葉はまったくオーバーではなかった。それどころか、日本車のフルモデルチェンジと言ってもいいくらいだった。これだけ中身がいいと、ぼってりとした冴えないスタイリングも、むしろチャームポイントと思えそうなくらいだった。
日本のメーカーはとかく、技術開発にレゾンデートルを求める傾向が強いが、クルマの価値を上げるのに大事なファクターである動的質感にここまでこだわりぬいたクルマづくりは滅多にみられない。スバルという小規模メーカーがここまでできるということを示したことは意義深い。エモーションの部分でそれを成し遂げた2位のロードスターRFとならび、「日本車ここにあり」と言い切れるクルマとして堂々と推したい。