こうした事業が軌道に乗りだしたら、お金もない、土地もないが、夢はあるという若者に、無担保でお金を融資してもいいと考えている。医療や福祉による地域づくりは、新しいアイデアが求められている。それを応援したいのだ。
たとえば、日本には約800万の空き家があるといわれる。この空き家を利用して、小規模多機能の介護サービスの拠点をつくったり、シングルマザーのシェアハウスをつくったりする。
従来、この2つは交流することは少ない。だが、地域包括ケアのネットワークでつないでいくとおもしろいことが起こる。子どもを育てるシングルマザーが、保育園に子どもを預け、小規模多機能施設で働きながら介護を勉強し、ライセンスを取ることもできる。小規模多機能を利用するお年寄りが、子どもとふれあい、簡単な世話をすることもできるかもしれない。
託児所付きの風俗店などがあるというが、風俗店に負けないサポート体制が必要だ。子育て中の若い親たちがもっと働きやすくすることと、歳をとって必要になる介護の問題を、切り離さずに考えていくことが大切だと思う。
ぼくが考える地域包括ケアとは、単なる介護問題の解決策ではない。介護をする側もされる側も、住民一人ひとりが地域づくりに主体的に参加するシステムであり、生き方や死に方を自分で決めることができる社会運動でもある。
自分で判断し、責任をもつこと。それは、服従に抵抗する第一歩である。厳しい世界の動きに流されないためにも、身近な地域でしっかりと地に足を着けていきたい。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に『「イスラム国」よ』『死を受けとめる練習』。
※週刊ポスト2017年1月13・20日号