「塩分を摂取すると血中の塩分濃度が高くなり、それを薄めるために血液内の水分が多くなります。すると血液全体の循環量が増え、血管に圧力がかかって血圧が増します」
この高血圧を防ぐ手段とされるのが「減塩」だ。厚労省の『日本人の食事摂取基準』(2015年)は、理想的な1日の食塩摂取量を男性8g、女性7gと定める。日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン』も「1日6g未満」をベースに高血圧患者の献立を決めている。
この基準をクリアするのは難しい。例えば、天丼1人前(塩分4.1g)、たくあん2切れ(同1.5g)、梅干し1個(同2g)を食べるだけで塩分量は7.6gになり、3食どころか1食だけで「1日6g未満」をオーバーしてしまうのだ。
こうした減塩を「意味がない」と否定する論文が、前述の週刊ポストが紹介した、1988年にロンドン大学などが英国、日本など32か国の約1万人を対象に行った「インターソルトスタディ」だ。調査の結果、「1日の塩分摂取量が6~14gの人には、塩分摂取と高血圧に相関関係が見られなかった」ことが判明し、同誌は1日の塩分摂取について、「日本人の平均摂取量である12g程度なら問題はない」とする専門家の見解などを伝えた。
つまり、1日12gの塩分を摂っても血圧は高くならず、一般的な食事なら無理に塩分を控えなくてよいとの考えだ。
従来の常識を覆すこの“新説”について、坂東ハートクリニック院長の坂東正章さんは、こう指摘する。
「私もその調査結果を読みました。ナトリウム摂取量と血圧の間には万人に当てはまる関係はありませんが、一定の相関関係が認められている。その点にこそ注目すべきです。つまり、摂取する塩分が多いほど血圧が高くなる人がいることは科学的に証明されています。ですから、私は従来通り、血圧が高い人は厚労省が推奨するレベルの減塩を目標とすべきだと考えます」