「それに対して、F1種というのは、大量生産、安定供給、大量輸送などを可能にするために人為的に改良した種で、現在、市場に出回っている野菜は、ほとんどこの種です。有機栽培の野菜もほとんどはF1種です」
で、それぞれを食べ比べてみると、古来種は、「味が濃くて、絶対においしい。その野菜の持ち味が生かされている」と高橋さんは言う。その土地の風土になじんでいることから、農薬や肥料も少なくてすむ。ただし、もともと生産量が少なく、成育時期や形、大きさなどは不揃いだから、今の流通に乗せるのは難しい。したがって、一般には入手しにくい。だからこそ、そんな野菜に出合うと「どうやって食べようかとわくわくする」とも。
とはいえ、これらの野菜は特別な調理をしなくても、特別なドレッシングを使わなくても、「ただ蒸すだけ、焼くだけでもおいしくて、むしゃむしゃ食べてしまう」。
その点、大量生産が可能なF1種は、見栄えがよく、安価で、気軽に買える。味は均一といわれるが、つまり、個性や癖がなく、食べやすいけど、あまり印象に残らない。
「だからといって、F1種を否定することはできません。日本の人口は1900年には約4000万人でした。それが1985年には約1億2000万人に、つまり85年間で3倍に増えています。この人口を支えた要因の一つとして、野菜の増産も見逃せません」
野菜料理がふんだんに食卓に載るようになり、食卓が豊かになったのはF1種のおかげでもある。だから、固定種・在来種の昔ながらの野菜とともに、F1種もなくてはならないもので、両者の共存は絶対に必要だ。
「食卓に載せる野菜の一品を、古来種野菜にしてほしい」
と、高橋さんは言う。でなければ、私たちの貴重な遺産である野菜の多くが、すぐにも絶滅してしまうのだ。
※女性セブン2017年2月9日号