1968年に『マッチ売りの少女』『赤い鳥の居る風景』で第十三回岸田國士戯曲賞を受賞した。これまでに書いた戯曲は140本以上。現代に起きた実際の犯罪・事件を劇のテーマにすることも多く、また、数多くのエッセイ集、童話なども手掛けてきた。
数年前にパーキンソン病と診断され、二か月前には白内障の手術も受けたばかりだ。とりわけパーキンソン病による闘病生活は、近年の日常の一つだという。
「この病気には何となく救いがない気がしていましてねェ。というのも、病気を宣告されたとき、医者から『これで死ぬことはないから』と何度も言われたのです。その後、薬屋のおばちゃんにも『大丈夫よ』と言われ……。
癌に罹って『あと三か月です』と告げられるのとは違って、そんなふうにみんなから『死なない、死なない』と励まされると、かえってどう生きたらいいかわからない、みたいな心持ちになる。まァ、ゆくゆくは誰もが死ぬわけですが」
病気には周期があって、体調の悪いときは足の置き場が分からなくなったり、震えで歩けなくなったりする。だが、良いときは「病気をしているとは思えないくらいに何の問題もない」。そうした日常を生きていると、こう思うようになってくるのだ──と彼は続ける。
「結局、自分が生きていく上での拠り所は仕事なんだな、と最近は思います。体の調子の良いときに、ここぞとばかりに書く。
『伸びしろ』という言葉が好きでしてね。芝居を書いていて、『ここをやらなきゃいけない』『ここがまだ完成していない』と思えるのは、自分にまだ伸びしろがあるから。それで体調が悪くなっても、次に体の調子が良いときに必ずその場所を埋めよう、という気持ちになれる。
そうすると、無意識のうちに生きていける、というのかな。古い人が仕事、仕事と言う理由が以前は分からなかったけれど、この年になって、なるほど、仕事ってのはいいもんだな、という感じがするのです」
●べつやく・みのる/1937年、旧満州生まれ。劇作家。1962年「象」が高い評価を受け、1968年「マッチ売りの少女」「赤い鳥の居る風景」で岸田國士戯曲賞。2008年「やってきたゴドー」で鶴屋南北戯曲賞。2008年朝日賞。ほか受賞多数。主な著書に『日々の暮し方』『虫づくし』など。
聞き手■稲泉 連(ノンフィクション作家)、撮影■渡辺利博
※SAPIO2017年3月号