ライフ

【法律相談】地方移住者を拘束する「覚書」の強制力は?

覚書はどこまで有効か?

 近年、地方移住を考える人が急増中。そういった人に補助金などを支給する自治体も登場している。しかし地上に移住したものの地域と合わず、戻ろうと思ったが、「何年かは引っ越さない」という覚書を取り交わしてしまった場合、どうすれば良いのか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。

【相談】
 定年後、ある県の誘致で東京から移住。古民家を譲り受け、満足していたのですが、会合への強制参加など、わずらわしいことが増え、やはり東京に戻ろうとしたのです。しかし、県は移住の際の3年間は引っ越さないという覚書を示し、認めてくれません。この場合、引っ越しを諦めなければいけませんか。

【回答】
 覚書に、どのような条件が記載されているかわかりませんが、引っ越し自体を禁止する規定はないはずです。なぜなら、国民は憲法第22条の「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」との定めにより、住居移転の自由を基本的人権として有しているからです。国や自治体、その他公権力は、いかなる者でも、その転居を禁止することは許されません。

 もちろん、公共の福祉に反することはできませんが、あなたと行政との個別的な約束が公共の福祉とはいえないので、移住をやめ転居しても公共の福祉に反していることにはならないと思います。

 役所が引っ越しを認めないというのは、転居自体を禁じているのではなく、転居するとあなたに不利益が生じるという警告をしているのではありませんか。

 例えば、移住にあたって、行政から移住先の古民家の改修費用などの補助金をもらっていませんか? こうした行政からの補助金の交付には、一定の条件が付されているのが通例で、違反すれば当然のことながら、返還を求められることになります。

 また、行政は転住者の受け入れ促進のために大きな投資をしていると思います。そこで過酷にならない範囲で、移住者を拘束する条件を覚書に含ませていることが十分考えられます。だからと引っ越せないことはありませんが、引っ越した後、行政から覚書に基づく補助金の返還や違約金の支払いを請求される可能性も否定できません。最終判断の前に、弁護士会の法律相談などを受けてください。

 田舎への移住には魅力がありますが、都市生活に慣れた身にはこたえることも少なくないはず。トライアル期間をおいて、移住の適否を判断できる、ゆとりのある制度を利用するのがよいでしょう。

【弁護士プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。

※週刊ポスト2017年2月24日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

志村けんさんが語っていた旅館への想い
《5年間空き家だった志村けんさんの豪邸が更地に》大手不動産会社に売却された土地の今後…実兄は「遺品は愛用していた帽子を持って帰っただけ」
NEWSポストセブン
寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《木漏れ日のなかベビーカーを押す海外生活》眞子さん、苦渋の決断の背景に“寂しい思いをしている”小室圭さん母・佳代さんの親心
NEWSポストセブン
自殺教唆の疑いで逮捕された濱田淑恵被告(62)
《信者の前で性交を見せつけ…》“自称・創造主”占い師の濱田淑恵被告(63)が男性信者2人に入水自殺を教唆、共謀した信者の裁判で明かされた「異様すぎる事件の経緯」
NEWSポストセブン
米インフルエンサー兼ラッパーのリル・テイ(Xより)
金髪ベビーフェイスの米インフルエンサー(18)が“一糸まとわぬ姿”公開で3時間で約1億5000万円の収益〈9時から5時まで働く女性は敗北者〉〈リルは金持ち、お前は泣き虫〉
NEWSポストセブン
原付で日本一周に挑戦した勝村悠里さん
《横浜国立大学卒の24歳女子が原付で日本一周に挑戦》「今夜泊めてもらえませんか?」PR交渉で移動…新卒入社→わずか1年で退職して“SNS配信旅”を決意
NEWSポストセブン
「第42回全国高校生の手話によるスピーチコンテスト」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
《ヘビロテする赤ワンピ》佳子さまファッションに「国産メーカーの売り上げに貢献しています」専門家が指摘
NEWSポストセブン
サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(時事通信フォト)
《総スカン》違法薬物疑惑で新浪剛史サントリー元会長が辞任 これまでの言動に容赦ない声「45歳定年制とか、労働者を苦しめる発言ばかり」「生活のあらゆるとこにでしゃばりまくっていた」
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《エプスタイン事件の“悪魔の館”内部写真が公開》「官能的な芸術品が壁にびっしり」「一室が歯科医院に改造されていた」10代少女らが被害に遭った異様な被害現場
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、インスタに投稿されたプライベート感の強い海水浴写真に注目集まる “いいね”は52万件以上 日赤での勤務をおろそかにすることなく公務に邁進
女性セブン
岐路に立たされている田久保眞紀・伊東市長(共同通信)
“田久保派”の元静岡県知事選候補者が証言する “あわや学歴詐称エピソード”「私も〈大卒〉と勝手に書かれた。それくらいアバウト」《伊東市長・学歴詐称疑惑》
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
「少女を島に引き入れ売春斡旋した」悪名高い“ロリータ・エクスプレス”にトランプ大統領は乗ったのか《エプスタイン事件の被害者らが「独自の顧客リスト」作成を宣言》
NEWSポストセブン
東京地裁
“史上最悪の少年犯罪”「女子高生コンクリート詰め事件」逮捕されたカズキ(仮名)が語った信じがたい凌辱行為の全容「女性は恐怖のあまり、殴られるままだった」
NEWSポストセブン