統計化されていない社会関係資本について興味深いエピソードがある。オーストラリア国立大学のピーター・ドライスデール名誉教授は、日本滞在時、地下鉄への乗り換え時に、それまで乗っていた電車の網棚の上にパソコンと財布を入れたバッグを置き忘れたことに気づき落胆していたが、2時間後に完全に無傷の状態で戻ってきたというのだ。このことに「これが日本の社会関係資本なのだ!」と彼は驚きを持って感動していた。
社会関係資本が統計化されるようになれば、今以上に日本の豊かさが統計で証明できると私は思っている。
安倍政権が2020年にGDP600兆円の目標を掲げたがハードルは高い。英国のEU離脱、トランプ大統領の誕生など、変容しつつある世界情勢の中、従来の価値観からシフトする時期が来ているのではないか。
世界各国はGDPを掲げつつも明らかに「人々を幸せにする経済」への実現に目を向けている。日本は新統計で表された世界一の強みを自覚し、その資本をさらに増やす=暮らしの質を高める経済に目を向けるべきだ。日本にはそのノウハウと実力があるのだから。
【PROFILE】ふくしま・きよひこ/1944年、兵庫県生まれ。一橋大学経済学部卒業。同大学院修了。毎日新聞社、野村総合研究所を経て、立教大学経済学部教授に。2010年から2015年まで同大学特任教授。著書に『日本経済の「質」はなぜ世界最高なのか』(PHP新書)など。
※SAPIO2017年3月号