「キャンプでシャトル走をしても、まだ若手よりはいいタイムで走れます。『あの人はベテランだから歩いていた』と言われるのが一番嫌なこと。若手にいい影響を与えないし、自分自身、若いころにそういうベテランの人たちを見るのが嫌だった。調整法などは個人の裁量に任されてもいいと思うけれど、ベテランだからといって練習免除の特権まで与えられるべきじゃない。グラウンドで年齢は関係ありませんから」

 自分が上の立場になったとき、自分がやってこなかったことを指示しても、言われた方は聞く耳を持たない。井口の言葉を聞いていると、いつでも指導者になれる準備はできているように感じられる。

「コーチが厳しいメニューを課して、若手が『やりたくない!』と言った時、『ほら、井口だって走ってるじゃないか』と言える。そういう環境づくりが自分の仕事だと思う。その役割をできなくなったときが、引退のサインなのかもしれませんね」

 華やかさが持て囃される球界で、自ら範を示せるベテランは貴重な存在だ。アマチュア時代にアトランタ五輪出場、プロで3度の日本一、メジャーでのワールドシリーズ制覇……井口は野球選手として華麗なエリート街道を歩んできた。その経歴が輝かしいことは確かだが、実はその人間性にこそ、彼の野球人としての一番の魅力がある。

【プロフィール】いぐち・ただひと/1974年、東京都生まれ。青山学院大時代には東都大学リーグ史上唯一の三冠王となるなど活躍(通算24本塁打は現在もリーグ記録)、4年時にはアトランタ五輪野球日本代表として銀メダルを獲得した。1996年、ドラフト1位でダイエーに入団(逆指名)。プロ初出場試合で満塁本塁打を放つ鮮烈なデビューを飾り、その後も中心打者として1999年と2003年の日本一に貢献した。2005年にMLBホワイトソックスへ移籍。いきなりワールドシリーズを制し、日本人で初めて日本シリーズとワールドシリーズを制覇した選手となった。フィリーズ、パドレスを経て2009年にロッテへ移籍。2010年には日本一に貢献する。

撮影■藤岡雅樹 取材・文■田中周治

※週刊ポスト2017年3月17日号

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