ライフ

【書評】UWFはいかにして社会を騙したか

【書評】『1984年のUWF』/柳澤健著/文藝春秋/本体1800円+税

【著者プロフィール】柳澤健(やなぎさわ・たけし)/1960年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。文藝春秋勤務を経てフリーライターに。『1976年のアントニオ猪木』(文藝春秋)、『1974年のサマークリスマス 林美雄とパックインミュージックの時代』(集英社)など著書多数。

 いまだにファンの間で苦い思いとともに語られるプロレス団体UWF。本書は、その軌跡を描いたノンフィクションである。

 1984年、新日本プロレスの内紛によりUWFは誕生し、前田日明、藤原喜明、高田伸彦、佐山聡らが参加した。当初の弱小団体はやがて社会現象となるほど人気が沸騰する。ロープに跳ばず、場外乱闘、凶器攻撃を排し、キックと関節技を中心に攻防し、KOかタップで勝負が決まる。

 当時はまだ世界のどこにも「真剣勝負の総合格闘技」が存在しなかったゆえに、それっぽい戦いと発言を繰り返すと、騙されたファンが熱狂し、一般紙やテレビがニュースやドキュメンタリーで取り上げ、多くの文化人が持ち上げた。

 だが、実際はあらかじめ勝敗の決められたプロレスだった。すでにそのことは広く知られているが、あらためて当事者の生々しい証言を交え、虚像が出来上がっていく過程を詳細に描いた本書は読み応えがある。

 著者は、真実を知りながら虚像作りに加担した格闘技専門誌を批判するが、本来言葉まで含めてプロレスだとすれば、むしろ何の検証もなく虚像(いわば欠陥商品)を拡散した一般紙やテレビや文化人が恥じ入るべきではないか。

 1990年代に総合格闘技が誕生すると、入れ替わるようにUWFとその派生団体は消滅した。出身者やUWFに刺激された者が総合格闘技に参戦したゆえ、著者も書くようにUWFは〈プロレスと総合格闘技の架け橋〉となった。だが、それは結果にすぎない。それだけに、ただ一人本気で総合格闘技を構想していた佐山聡の存在が光る。本書で多くのページが割かれている佐山には、生まれるのが早すぎた天才の悲劇を思わざるを得ない。

※SAPIO2017年4月号

関連記事

トピックス

橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
看護師不足が叫ばれている(イメージ)
深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン
フレルスフ大統領夫妻との歓迎式典に出席するため、スフバートル広場に到着された両陛下。民族衣装を着た子供たちから渡された花束を、笑顔で受け取られた(8日)
《戦後80年慰霊の旅》天皇皇后両陛下、7泊8日でモンゴルへ “こんどこそふたりで”…そんな願いが実を結ぶ 歓迎式典では元横綱が揃い踏み
女性セブン
犯行の理由は「〈あいつウザい〉などのメッセージに腹を立てたから」だという
「凛みたいな女はいない。可愛くて仕方ないんだ…」事件3週間前に“両手ナイフ男”が吐露した被害者・伊藤凛さん(26)への“異常な執着心”《ガールズバー店員2人刺殺》
NEWSポストセブン