コラム

米大統領の存在誇示 ドルからの大々的な資金逃避も

存在を誇示すれば為替に影響(トランプ氏facebookより)

 国のトップが変われば為替相場にも影響するもの。ドナルド・トランプ氏がアメリカの大統領に就任したのを受けて、米ドルはどのように動くのか? バーニャマーケットフォーカスト代表の水上紀行氏が解説する。

 * * *
 米国の大統領が替わり、自分の存在を誇示しようとする新・大統領は、今回のトランプ大統領に限らず、過去にもありました。それによって、大変な事件が起こり、為替相場にも如実に影響が現われたことがありました。それは、2001年に就任したジョージ・ブッシュ大統領の時です。

◆ジョージ・ブッシュ政権下で起きた大事件

 ジョージ・ブッシュも自分の存在を誇示しようと、特にイスラム圏に対して圧力を加えたところ、オサマビン・ラディン率いるテロ集団アルカイダが、噛みつきました。そうして起きた大事件が、2001年9月11日の米同時多発テロです。

 アルカイダは、米旅客機をハイジャックし、2機はニューヨークのワールド・トレード・センターに突入、もう1機はワシントンD.C.にあるペンタゴン(国防総省)に突入。最後の1機は、乗客の抵抗により墜落しました。

 特に、ワールド・トレード・センターの突っ込んでいく旅客機は、映画のワンシーンを見ているようで、全く実感がわきませんでした。そして、あの巨大なツイン・ビルが、崩壊していきました。

 この惨状に、ブッシュ政権はヒステリックになります。その行動のひとつの例が、ドイツのメルケル首相の携帯電話にアメリカが盗聴器を仕掛けていた事件です。

 2013年にこのことが発覚した際、オバマ大統領は知らなかったと釈明しました。盗聴器を仕掛けられたのが9.11の事件後の2002年で、メルケル首相だけではなく、世界の主だった要人の電話あるいは携帯電話に盗聴器が仕掛けられていたことものちのち発覚しました。

◆2001年の9.11が作った為替相場の大トレンド

 話は前後しますが、2001年の9.11 から半年近く経った2002年の2月頃から、投資家が動き始めました。ここでいう投資家とは、政府系ファンド、年金の運用機関であるペンションファンド、生保など機関投資家、そして中央銀行などを指します。

 彼らは、公的あるいは準公的のお堅い人達ですので、当面の投資方針を決定するのに、相当な時間を要します。この場合であれば、事件が前年9月に発生し、動き出したのが2月ですから半年近く検討した後、ドルから資金逃避するということで、動き出したわけです。

 彼らの動かす額はかなり大きいため、世界第1位の取引量を誇る通貨「米ドル」から資金を移そうと考えたとき、受け皿になれるのは世界第2位の取引量をもつ通貨「ユーロ」ぐらいしかありません。

 そして、いったん彼らの資金が「米ドル→ユーロ」へと動きだすと、怒涛の勢いで、米ドルからユーロへ一方向のフロー(資金の流れ)が発生しました。この流れ(ユーロ/ドルの買い)は6年間続き、ユーロ/ドルはその間に約7500ポイントの上昇を見ることに。

 大統領が自らを誇示しようとしたがために、大惨事にはなるし、またドルからの資金逃避が大々的に起きたわけです。そして、今回アメリカファースト(アメリカ第一主義)を唱えているトランプ大統領も、下手をすると、同じような事態に遭遇する可能性は否定できません。

【プロフィール】水上紀行:1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)に入行。1983年よりロンドンや東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。バーニャ マーケット フォーカスト代表。

マネーポスト2017年春号

関連キーワード

関連記事

トピックス

那須御用邸にて両陛下とかりゆしウェアで登場された愛子さま(2025年7月、栃木県・那須郡。撮影/JMPA) 
愛子さま、3年連続で親子水入らずの夏休み 那須御用邸にて両陛下とかりゆしウェアで登場 「祈りの旅」の合間に束の間の休息 
女性セブン
グラビアから女優までこなすマルチタレントとして一世を風靡した安田美沙子(本人のインスタグラムより)
《お灸をすえて“再構築”を選んだ安田美沙子》デザイナー夫“2度の不倫”から5年経った現在「結婚12年目の夫婦の時間」
NEWSポストセブン
来場所の成績に注目が集まる若隆景(時事通信フォト)
「大関ゼロ危機」問題が深刻すぎて関脇・若隆景は「来場所10勝でも昇進」か 中継解説の琴風氏が「僕は31勝で昇進しています」と後押しする背景に“令和の番付崩壊”が
NEWSポストセブン
次期総裁候補の(左から)岸田文雄氏、小泉進次郎氏、高市早苗氏(時事通信フォト)
《政界大再編》自民党新総裁・有力候補は岸田文雄氏、小泉進次郎氏、高市早苗氏 高市氏なら参政党と国民民主党との「反財務省連合」の可能性 側近が語る“高市政権”構想
週刊ポスト
人気中華料理店『生香園』の本館が閉店することがわかった
《創業54年中華料理店「生香園」本館が8月末で閉店》『料理の鉄人』周富輝氏が「俺はいい加減な人間じゃない」明かした営業終了の“意外な理由”【食品偽装疑惑から1年】
NEWSポストセブン
お気に入りの服を“鬼リピ”中の佳子さま(共同通信)
《佳子さまが“鬼リピ”されているファッション》御殿場でまた“水玉ワンピース”をご着用…「まさに等身大」と専門家が愛用ブランドを絶賛する理由
NEWSポストセブン
レッドカーペットに仲よく手をつないで登場した大谷翔平と真美子夫人(写真/Getty Images)
《5試合連続HRは日本人初の快挙》大谷翔平“手つなぎオールスター”から絶好調 写真撮影ではかわいさ全開、リンクコーデお披露目ではさりげない優しさも 
女性セブン
選挙中からいわくつきの投資会社との接点が取り沙汰されていた佐々木りえ氏
《維新・大阪トップ当選の佐々木りえ氏に浮上した疑惑》「危うい投資会社」への関わりを示す複数のファクト 本人は直撃電話に「失礼です」、維新は「疑念を招いたことは残念」と回答
週刊ポスト
筑波大学で学生生活を送る悠仁さま(時事通信フォト)
【悠仁さま通学の筑波大学で異変】トイレ大改修計画の真相 発注規模は「3500万円未満」…大学は「在籍とは関係ない」と回答
NEWSポストセブン
2025年7月場所
名古屋場所「溜席の着物美人」がピンクワンピースで登場 「暑いですから…」「新会場はクーラーがよく効いている」 千秋楽は「ブルーの着物で観戦予定」と明かす
NEWSポストセブン
アメリカから帰国後した白井秀征容疑(時事通信フォト)
【衝撃の証拠写真】「DVを受けて体じゅうにアザ」「首に赤い締め跡」岡崎彩咲陽さんが白井秀征被告から受けていた“執拗な暴力”、「警察に殺されたも同然」と署名活動も《川崎・ストーカー殺人事件》
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 自民落選議員が参政党「日本人ファースト」に異議あり!ほか
「週刊ポスト」本日発売! 自民落選議員が参政党「日本人ファースト」に異議あり!ほか
NEWSポストセブン