「私は『ピッのお墓』がいいと思ったんですが、主人は外のお墓をつくりたいと反対しました。間をとった形になって、ちょうどよかったと思います」
こう話すのは、今年1月に徳島から東京へ改葬した岡田美子さん(仮名、58才=東京都)だ。彼女の言う『ピッのお墓』とは、ICカードをかざすと厨子(納骨箱)が運ばれてくる自動搬送式のお墓のこと。音はしないが、ICカードをかざすときのイメージは「ピッ」。言い当てている。
美子さんは同世代の友人たちと「お墓をどうするか」が話題にのぼることも多く、都内あちこちに自動搬送式のお墓ができていることを知っていた。いいと思ったのは「雨風関係なしにお参りでき、今の時代に合っているから」だ。
ところが、昨年義母が亡くなり、「東京にお墓を」が現実になったとき、夫(59才)は「軽々しい。お墓と思えない」と難色を示した。
「真っ向から意見が割れましたが、偶然とは思えないような出合いに導かれまして」
美子さんが「間をとった形」と言ったのは、お寺の堂内に設けられた仏壇型の納骨堂である。
「仏壇型の納骨堂」は聞き慣れないので、少し説明したい。そもそも納骨堂とは、文字通り骨を納めるお堂のことを指し、昔からあった。北海道や九州では、外のお墓と納骨堂の両方に分骨し、お参りは納骨堂の方へ行くのが今も昔も一般的だ。寒暖厳しい風土のためだが、それ以外の地では「お墓を建てるまで、一時的に保管してもらう場所」だった。
ところが、ここ10年ほどで、特に東京では様相が変わった。「室内墓」という言い方も生まれ、外のお墓と同じ役割を担う納骨堂が次々と誕生した。形としては、自動搬送式もその1つで、他には、まさに仏壇のような形の仏壇型や、ロッカー型、棚式なども増えたのだ。
そんな状況を見てきた葬送ジャーナリストの塚本優さんは、こう語る。
「もはや納骨堂は、暫定利用のものではなくなっています。墓埋法(墓地、埋葬等に関する法律)では、遺骨の墓地以外への埋葬を禁じていますが、納骨堂は埋葬するわけではないので、法的にも問題ありません。自動搬送式とまで割り切れないが、外のお墓を買うほどではないという層が、仏壇型、ロッカー型に流れています」
■文/井上理津子 (ノンフィクションライター)
※女性セブン2017年4月27日号