もう一つの理由として、20世紀後半の冷戦崩壊後、新たな「文明の衝突」が起こっている。それまでの共産主義と自由主義といったイデオロギーの対立ではない。ISの連続テロ、またはトランプ政権によるイスラム教徒の入国拒否騒動を持ち出すまでもなく、宗教が前面に出た衝突である。
これら宗教は「一神教」であり、ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の3つである。そしてこの3つの源流は旧約聖書にある。ところが、旧約聖書となると日本人には皆目分からない。日本人は歴史的に、一神教の成り立ちや構造、信仰の深さを理解できない。
一神教には常に神という絶対者が存在する。そのため、すべては相対化される。日本は多神教、汎神論的な世界であるため、相対というものがない。逆に言えば、絶対の対象となるものが無数にある。その対象が次から次へと変わる特殊な構造を持っているためにどうしても一神教的世界観を理解することができず、世界史からズレてしまうのだ。
その点、山本七平は若い頃にキリスト教の洗礼を受けており、原点に宗教というものがあった。しかも、どこかの教会や神学に属しているのではなく、日本人としてそれを学び、かつ考え抜いた人なのだ。だから山本著作を読むと、世界とのズレが顕在化する。