日本において「子どもの貧困」が大きな社会問題になるのは、母子家庭の多くが生活保護以下の収入で暮らしているからだ。日本の母子家庭は先進国のなかでも生活保護の受給率がきわめて低いが、それは保護を受けることで子どもがいじめられることを危惧しているからだろう。
だが欧米の研究は、母子家庭の子育てを支援し、職業教育を提供すれば、働く母親は納税によって受益を上回る社会への貢献ができることを示している。だとすれば必要なのは、母子家庭を生活保護の枠組みから切り離し、子どもがいわれなきいじめの対象にならないようにしたうえで、母親が子育てをしながら労働市場に戻れるような政策を考えることだ。
財源がかぎられている以上、趣味のような学問に無駄な補助金を払うくらいなら、日本社会の最貧困層で呻吟する母子家庭に直接、現金を支給した方がはるかに「格差社会」の不平等を是正できる。
だが利権のために「教育」という幻想を振りまくひとたちが、自分の懐に税金が入ってこないこの案を支持することはぜったいにないだろう。
●たちばな・あきら/作家。1959年生まれ。小説『マネーロンダリング』でデビュー。ノンフィクションや時評も手掛け、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』がベストセラーに。『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』など著書多数。近著に『言ってはいけない』がある。
※SAPIO2017年5月号