品物は鮮魚から肉類、飲み物まで500品以上あり、地域の高齢者の救いに
「利用してくれる人の顔と名前はほぼ一致します。一日誰ともしゃべらずにいて、ぼくの車が来ると家から出てきて、そこで初めて口をきく人も結構いるんです」(星野さん)
常連客の1人、武田すみさん(82才・仮名)は、3年前に夫に先立たれて一人暮らし。いつもナイロンの買い物袋を手に現れる彼女は、移動販売を心待ちにしている。
「あの音楽を聞くと心がウキウキしてくるんだよ。昔はおじいさんの運転する車に乗せてもらって買い物したけど、今は星野さんだけが頼りでね。年金生活だからたくさんは買えないけど、甘いものやお刺身を少しずつ買うずら。おじいさんがいた頃は家でおしゃべりできたけど、今はひとりだから、ここでご近所とお話ができて楽しいねぇ。家に戻ったら仏壇に置いてあるおじいさんの写真に“今日は星野さんの店で買い物をしたよ”って報告するずら」(武田さん)
武田さんは月に1度、町のコミュニティーバスで病院に行って血圧の薬をもらう。
「それ以外の置き薬は富士薬品の人が年に何回か来てくれて、薬箱にないものを補充してくれるんだ。冬は冷たくて指があかぎれになるから助かるよぉ」(武田さん)
食料は星野商店、薬は富士薬品。2つの支えで武田さんの生活は成り立っている。この日、武田さんはまぐろの刺身とクリームパン、ヨーグルトを買って帰路に着いた。星野さんは同町内を1日に平均18か所訪問する。楽な仕事ではないが、大手の運送会社を脱サラして家業を継いだ彼にとって、日々の充実感は代えがたい。
「毎日の売り上げは7万~8万円で、収支はギリギリ。でも移動販売を始める前よりはもうかっています。生まれ育った地域のためにも、今後もこの商売を続けていきます」(星野さん)
撮影/末並俊司
※女性セブン2017年6月22日号