買い物難民となった集落の住人のために町内を回る星野さん


「2000年に成立したこの法律は、いわば大型スーパーの出店を事実上無制限に許すものでした。地方都市に大型店が続々と進出し、それまで地域住民が頼った商店街がシャッター通りになり、地元スーパーがどんどんつぶれていった。

 その後、大型店同士の競争が激化すると、今度は負けた大型店の撤退が相次いでフードデザートが拡大した。結果、交通手段を持たない高齢者が食の砂漠に取り残されて“難民化”したんです」

 農水省の推定によれば、現在、家から500m内に商店がない買い物難民は全国に約850万人。高齢化と共にその数は増え続け、2030年までに1000万人を超えると予想される。フードデザートは地方のみならず都心にも広がっている。

 一例が東京・板橋区の高島平団地。総戸数1万戸、国内最大規模の団地は今、65才以上の高齢者比率が4割を超えた。大型スーパーに顧客を奪われ、近くの個人商店が続々閉店。車がなく足腰の弱い高齢者が買い物難民と化し、区も解決策に苦慮している。

 東京のど真ん中、新宿区でさえこの問題から逃れられない。現在、同区の高齢者の独居率は45%超。体の不自由な独居老人がスーパーに行けず、栄養失調にあえいでいる。列島を襲う“食の砂漠化”を直視するため、本誌は5月末のある週末、先述の山梨県市川三郷町で星野商店の「移動販売」に密着した。

「父の代からまぐろの刺身を売りにして小さな商店を営んでいたけど、高齢化で町の人口が減少して売り上げが落ちました。それで“攻めの商売”として3年前から移動販売を始めたんです。もちろん、地域のために役立ちたいという気持ちも強かったです」

 そう話す星野さんは、耳にピアス、サイドを刈り上げた髪形にあごひげという今風の若者。物腰は柔らかく、笑顔が清々しい。

 一日の作業開始は朝7時。両親とともに、移動販売用の軽トラックの冷蔵庫に食料品を詰め込む。品数は計500品目超。詰め終わる頃には11時半を回る。助手席に小型のレジを置いて、出発進行。車の屋根に据え付けたスピーカーが陽気な歌を奏でるなか、深い緑に囲まれた山あいの細い道を縫うように走る。

 同地域は標高1600mの山々を見上げる場所にあり、山の裾野に続く斜面にへばりつくように集落が点在する。

 かつては養蚕業で栄えたが現在は廃れ、蚕を飼う家はほとんどない。最初に向かったのは同町大塚地区。林泉寺という古刹を中心にした集落で、漆喰がはがれ落ちて土壁があらわになった家が目立つ。

 広場に車を止めると、ぱらぱらと住民が集まってきた。「全員が常連さん」(星野さん)という顔なじみで、彼を囲んで楽しそうにおしゃべりをする。

関連キーワード

関連記事

トピックス

永野芽郁の近影が目撃された(2025年10月)
《プラダのデニムパンツでお揃いコーデ》「男性のほうがウマが合う」永野芽郁が和風パスタ店でじゃれあった“イケメン元マネージャー”と深い信頼関係を築いたワケ
NEWSポストセブン
多くの外国人観光客などが渋谷のハロウィンを楽しんだ
《渋谷ハロウィン2025》「大麻の匂いがして……」土砂降り&厳戒態勢で“地下”や“クラブ”がホットスポット化、大通りは“ボヤ騒ぎ”で一時騒然
NEWSポストセブン
声優高槻かなこ。舞台や歌唱、配信など多岐にわたる活躍を見せる
【独占告白】声優・高槻かなこが語る「インド人との国際結婚」の真相 SNS上での「デマ情報拡散」や見知らぬ“足跡”に恐怖
NEWSポストセブン
人気キャラが出現するなど盛り上がりを見せたが、消防車が出動の場面も
渋谷のクラブで「いつでも女の子に(クスリ)混ぜますよ」と…警察の本気警備に“センター街離れ”で路上からクラブへ《渋谷ハロウィン2025ルポ》
NEWSポストセブン
クマによる被害
「走って逃げたら追い越され、正面から顔を…」「頭の肉が裂け頭蓋骨が見えた」北秋田市でクマに襲われた男性(68)が明かした被害の一部始終《考え方を変えないと被害は増える》
NEWSポストセブン
園遊会に出席された愛子さまと佳子さま(時事通信フォト/JMPA)
「ルール違反では?」と危惧する声も…愛子さまと佳子さまの“赤色セットアップ”が物議、皇室ジャーナリストが語る“お召し物の色ルール”実情
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
「日本ではあまりパートナーは目立たない方がいい」高市早苗総理の夫婦の在り方、夫・山本拓氏は“ステルス旦那”発言 「帰ってきたら掃除をして入浴介助」総理が担う介護の壮絶な状況 
女性セブン
9月に開催した“全英バスツアー”の舞台裏を公開(インスタグラムより)
「車内で謎の上下運動」「大きく舌を出してストローを」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサーが公開した映像に意味深シーン
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(クマの画像はサンプルです/2023年秋田県でクマに襲われ負傷した男性)
《コォーってすごい声を出して頭をかじってくる》住宅地に出没するツキノワグマの恐怖「顔面を集中的に狙う」「1日6人を無差別に襲撃」熊の“おとなしくて怖がり”説はすでに崩壊
NEWSポストセブン
「原点回帰」しつつある中川安奈・フリーアナ(本人のInstagramより)
《腰を突き出すトレーニング動画も…》中川安奈アナ、原点回帰の“けしからんインスタ投稿”で復活気配、NHK退社後の活躍のカギを握る“ラテン系のオープンなノリ”
NEWSポストセブン
真美子さんが完走した「母としてのシーズン」
《真美子さんの献身》「愛車で大谷翔平を送迎」奥様会でもお酒を断り…愛娘の子育てと夫のサポートを完遂した「母としての配慮」
NEWSポストセブン
11歳年上の交際相手に殺害されたとされるチャンタール・バダルさん(21)千葉県の工場でアルバイトをしていた
「肌が綺麗で、年齢より若く見える子」ホテルで交際相手の11歳年下ネパール留学生を殺害した浅香真美容疑者(32)は実家住みで夜勤アルバイト「元公務員の父と温厚な母と立派な家」
NEWSポストセブン