ライフ

麻雀プロ『哭きの竜』の台詞はマネしても闘牌はマネできない

麻雀プロは竜の闘牌をどう評価するか?(『哭きの竜~Genesis~』より)

「あンた背中が煤けてるぜ」──主人公・竜のこの有名な台詞とともに、麻雀ファンだけでなく多くの読者を魅了し続ける麻雀漫画『哭きの竜』(能條純一・作)。シリーズ最新作『哭きの竜~Genesis~』も大きな話題となっているが、この『哭きの竜』の世界を、実際の麻雀プロはどう見ているのか。現在、麻雀プロとして様々なメディアで活躍する梶本啄程氏(46)が、その魅力を語った。

 * * *
 現在40代以上の麻雀プロあるいは麻雀ファンで、『哭きの竜』に影響を受けた人は多いと思います。僕らが学生の頃は麻雀漫画雑誌も多く、麻雀を打ちながらキャラクターのセリフを言うのが流行ってたんですよね。『哭きの竜』の場合、主人公・竜は当然として敵役のセリフも一々格好良かったですし。「あンた背中が煤けてるぜ」って意味はよく分からないけど、つい真似したくなる。

 一方で、竜の闘牌は真似したいけど真似られない。麻雀というゲームは、鳴けば(他の人から必要牌をもらって、手牌の一部を公開する行為。竜では「哭く」と表現されています)鳴くほど、相手から手の内を読まれやすくなります。また、手牌から切れる牌が少なくなるので、相手のアガリ牌を捨てるリスクも高まります。

 ですから、敵の雨宮が「ひとつさらせば自分をさらす。ふたつさらせば全てが見える。みっつさらせば地獄が見える」というのは、“竜のような麻雀を打つと怪我するよ”という正に戒めの言葉なんですね。麻雀プロはこっちの言葉の方が凄く響くと思います。いわば竜は「反面教師」。だけど、そんな危ない麻雀を打ちながら負け知らずの竜。麻雀を打つ者にとっては憧れのような存在の1人でしょう。

 特に竜の場合、敵役の多くはヤクザに雇われた代打ちであったり、雀ゴロ(賭け麻雀で稼いでいる人)ばかりです。昭和の時代ならまだしも、現在においてそんな打ち手は絶滅危惧種のような存在。今でもマンション麻雀のような高レートのセット麻雀で雀ゴロをやっている人の話を耳にしますが、常にヒリヒリする勝負ばかりですから金銭的にも精神的にも長く続けられる人は非常に少ないでしょう。

 また、麻雀という種目自体、一勝負に長い時間を要し、またイカサマ対策も万全ではありません(部屋に隠しカメラを仕込んだり、牌にICチップを入れるなどの細工をするというようにやり方はたくさんあります)。ですからヤクザ同士の利権争いのような大勝負には不向きです。そのため、現在では組同士の麻雀の代打ち勝負はほぼないと言って差し支えないでしょう。

 もしかしたら、今でも竜のような勝負師が日本のどこかに存在しているのかもしれませんが、残念ながら僕はお目にかかったことがありません。もしそういう打ち手がいたとしたら、どんなレート・どんなルール、そしてどういう麻雀を打って勝つのか、非常に興味深いところですね。

◆梶本琢程(かじもと・たくのり):麻雀評論家・麻雀プロ。現在、麻雀番組の実況・解説を担当するほか、東京・飯田橋にて雀荘「麻雀ロン」を経営。


■能條純一氏による伝説の麻雀漫画『哭きの竜』シリーズ。その最新シリーズ『哭きの竜~GENESIS~』(全1巻)第1話を読む。

関連キーワード

関連記事

トピックス

和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
犯人の顔はなぜ危険人物に見えるのか(写真提供/イメージマート)
元刑事が語る“被疑者の顔” 「殺人事件を起こした犯人は”独特の目“をしているからすぐにわかる」その顔つきが変わる瞬間
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン