数々のカラー写真を見ていて感じるのは、人間の営みの共通性、人々の祭りへの熱狂、素朴な信仰心などだけではない。写真からは音が聞こえてくるのだ。ざわめき、祈り、エクスタシー、息吹。「音霊」という一章も設けられているが、本書は古代から伝承されてきた視聴覚教育の記録でもある。
芳賀が「旅する写真家」を仕事に出来たのには、宮本常一、谷川健一、岡正雄などの強い支持があった。今と違って世界を飛び歩くにはお金がやたらかかった時代である。平凡社の百科事典などが芳賀の民俗写真を買ってくれたからこそ可能になった仕事だった。その感謝も芳賀は忘れていない。
※週刊ポスト2017年7月14日号