小笠原さんはこの丹羽さんの奥さんを含め、ひとり暮らしのかたを55人自宅で看取ってきた。ひとり暮らしで自宅で亡くなると孤独死になってしまう──そう思う人が多いだろう。しかし、小笠原さんは次のように話した。
「55人のうち、『私は1人で家で死にたいの』と言った人が2人いました。その2人はやっぱり1人の時に亡くなりました。でも、51人のかたはたまたま誰かが来ている時に亡くなっています。1人でいる時間が圧倒的に多いんですけど、確率的には嘘みたいに、90%以上の人は1人で亡くならない。ひとり暮らしのかたには、非常に不思議なことが起こっています」
講義終了後の質疑応答では、末期がんで認知症も患う母親を自宅で看取ることを決心し、準備を始めたという女性が質問に立った。母親に時折、口汚い言葉を向けてしまうと打ち明けた女性に、小笠原さんはこう語りかけた。
「在宅医療、在宅ホスピス緩和ケアというのは、家族が疲れたら、それは失敗なんです。だから、あなたが一生懸命やりすぎるのは、お母さんを苦しめることになるので、自分がしてあげたいという気持ちはあっても、あなたが疲れ込んで介護できなくなってはいけないと思います。あなたが疲れないように、仕事をやめなくてもいいように、訪問看護師さんたちに『今、こういうつらい思いをしている』ということを伝えてください。きちんといいプランを考えてくれますから。そうすればきっと、お母さんは朗らかに生きて亡くなられると思います」
切実な思いを抱えてこられたかたが多かった今回の講義。受講者のかたが講義終了後に書いたアンケートを一部紹介しよう。
「“死”はタブーではなく生きることであり、望み通りに迎えられると本当に“めでたいこと”だなと思いました」
「お金がなくてひとり暮らしです。でも最期は安心ですね。今を楽しみたいと思います」
「なんとめでたいご臨終」は決して夢物語ではない。
※女性セブン2017年8月10日号