佐藤:そうね。歯を抜いたりして。
冨士:大変でしたね。
佐藤:齢を取ってから歯を抜くと全身にダメージが来るからって、内科の先生は大反対したんだけど、どうにもならなくなって、出血がひどかろうというので入院して抜いたの。
冨士:痛かったでしょう。
佐藤:それが全然痛くなかったの。看護師さんが、出血にそなえてティッシュ1箱用意してください、って言うから覚悟してたんだけど、1滴も出なかったんですよ。
冨士:何なんでしょう、それ。
佐藤:だから、もう血も涙もなくなっちゃったのよ。90才も過ぎると。
冨士:ちゃんと治ったんですか。
佐藤:治ったけど、今は仮歯できちんとした歯はまだ入っていないの。
冨士:でも、とてもお元気そうです。
佐藤:人が来ると元気になるもので。冨士さんは、吉行(和子)さんとはしょっちゅう会ってらっしゃるの?
冨士:月に1、2回です。電話もそれぐらい。あの人はB型でせっかちだから。先生は何型ですか。
佐藤:血液型? A型。ありふれてるのよ。
冨士:B型かと思った。
佐藤:どうして? B型というのはどんなの?
冨士:なんでも即決。1度、吉行和子と一緒にデパートに買い物に行ったら、二度と一緒に行ってくれなくなっちゃった。私が悩んで、あれだこれだって出してくると、冷たい目をして、「どうせ入らないのに」なんて言って。自分のものは、これってすぐに決めて買って終わり。
佐藤:じゃあ、私と同じだ(笑い)。
◆佐藤愛子(さとう・あいこ)
1923年大阪府生まれ。1969年『戦いすんで日が暮れて』で直木賞、1979年『幸福の絵』で女流文学賞、2000年『血脈』の完成により菊池寛賞、2015年『晩鐘』で紫式部文学賞を受賞。エッセイ集『九十歳。何がめでたい』が大ベストセラーに。
◆冨士眞奈美(ふじ・まなみ)
静岡県生まれ。1956年『この瞳』の主役でデビューし、俳優座付属養成所を卒業。翌1957年にNHKのテレビ専属第1号になり、以来、映画や舞台、ドラマやバラエティー番組などで幅広い活躍をしている。句集『瀧の裏』など著作も多い。
●構成/佐久間文子 ●撮影/太田真三
※女性セブン2017年8月24・31日号