◆どうしてそんなところに?
年間1万5000件の“行方不明事件”のなかで、幸いすぐに見つかった事案の関係者が異口同音に口にするフレーズがある。「どうしてそんなところに」──。
東京・大田区のデイサービス施設の関係者が、80代の男性Aさんがとった驚きの行動を証言する。
「Aさんはデイサービスの合間、ちょっと目を離した隙に玄関から抜け出した。風の強い冬の日で、所持金もない。遠くに行けるはずがないと思ったので、近隣を重点的に探していました」
ところが数時間後、Aさんが発見されたのは施設から約10km離れた大井埠頭(品川区)の桟橋だった。
「埠頭までは幹線道路や運河に架かる橋をいくつも渡らないと辿り着けない。強風の中、どうやってたどり着いたのかはご本人も説明できない。足がパンパンに腫れていたので徒歩だったのでしょう。セーター1枚の部屋着姿で、体は冷え切っていた」
Aさんのようなケースは、“季節外れの服装”で第三者が異変に気づくことができる。厄介なのは、周囲が気づきようがない場合だ。別の施設関係者がいう。
「Bさん(70代女性)はいわゆる“まだら”の状態で、会話も成立するから普通のおばあちゃんにしか見えません。その日、お迎えに行ったら自宅は空っぽ。自転車に乗らない方なので『徒歩にて移動』と通報したのですが、発見された時には、なんと持ち主不明の自転車を押していた。顔写真を持って目を光らせていた隣町のケアマネさんのおかげで奇跡的に見つかった」