「お母さんを困らせてはいけないよ」
「この子、時天空さんの相撲が一番おもしろいっていつもこうなんです。足技がすごいんだって」
「そうですか、ありがとうございます。光栄です。でもね坊や、僕の真似してくれるのはうれしいけど、お母さんのお腹には坊やの弟か妹がいるのだからあぶないことはしないほうがいいよ。お母さんを大事にして、勉強も、スポーツもがんばってください」
母親は「時天空さんがおっしゃるなら、そうなるといいのですが」とはにかんでいたが、少年は笑っていなかった。キッと口を結んで、その技を真似して遊ぶほど大好きな時天空から目を逸らしていた。
母親を転ばそうと足技をかけ時天空を怒らせてしまった、と思ったのか。あこがれの時天空に対面し感動で胸がいっぱいなのか。なんらかの感情が体液中にぐるぐるめぐったのだろう、少年の身体がプクッとほんの少し膨らんだように見えた。
「ほら、『これからも応援しています』って時天空さんに言いなさい」
母親のうながしにも、少年は従わなかった。黙ったまま、時天空を直視しない、という行動に懸命になっている。
「もう、いつもはテレビに向かって時天空さんを応援しているのに、どうしてせっかく会えたのに、うちの子ったら」