《【新規募集】平成29年10月頃出産予定》。あるサイトのかわいらしい赤ちゃんのイメージ写真をスクロールしていくと、突然こんな見出しが登場する。下に続くのは妊婦のプロフィール。
《年齢:20代前半》
《出産予定:平成29年10月中旬頃》
《健康保険:有り》
《母子手帳:有り》
《赤ちゃん性別:不明》
《健診:9月受診済み 問題なし》
《その他条件:平成29年9月~12月までの生活費、医療費、諸経費等の支援が必要》
ここでは日々、「人間の赤ちゃん」の里親が、ネットを介して募集されている──。さまざまな事情で親が育てられなくなった赤ちゃんを匿名で預けることができる「こうのとりのゆりかご」、通称「赤ちゃんポスト」。国内唯一の施設が慈恵病院(熊本市)に誕生してから、今年5月で10年の節目を迎えた。この間、同院に預けられた赤ちゃんは125人。
「妊娠、出産を他人に知られたくない人に、安心して赤ちゃんを預けてもらいたいと思って始めた。赤ちゃんの命を守るという点で、役目を果たせた」
同院の蓮田太二理事長は会見で、赤ちゃんポストの意義についてこう語った。
安易な育児放棄を懸念する声が噴出し、「赤子の遺棄場」と揶揄されるなど、開設当初から批判にさらされ続けた10年だった。慈恵病院の元看護師長で、赤ちゃんポストの趨勢を見てきた下園和子さんはこう語る。
「抗議の電話も多く、現場の人間にも葛藤がありました。赤ちゃんを救うことができたという喜び以上に、この子たちは親に捨てられたのだという現実は重すぎて…。実際、検証報告書にもあるのですが、預けられる子供の1割に何らかの障害があったんです。普通はそんな高い割合で障害は出ない。『どんな子供でも受け入れる』という社会醸成のなさが、赤ちゃんポストの利用に繋がり、命の選別になっているとも感じました。
それでも、望まぬ妊娠で悩んでいる人、貧困などさまざまな事情で子供を育てられない人の存在をクローズアップし、問題を提起できた点は意義があったと思います」
そして今、似て非なる“同業者”が登場し、慈恵病院の比ではない賛否の嵐を巻き起こしている。冒頭のサイト、「インターネット赤ちゃんポスト」がそれだ。
◆実母のほとんどは病院の健診さえ受けていない