お金があるなら、それなりの金額を提示して確実な託児サービスを利用すればよいと思うかもしれない。だが、金をいくら積んだところで、急な預かり保育に対応してくれる機関は少ないのが現実だ。
Aさん夫婦は、子育てを最優先にしたいと願いつつも、会社から、そして職場の同僚からのオファーがあれば仕事に駆けつけなければならなかった。こういった人々が日本社会を支えているというのは、もはや周知の事実だ。そんな中、レクリエーション色が強く、しかもフレキシブルに困った夫婦に対応してくれるサービスはほとんどない。我が子にとって”有益だ”と思える場所がある。そんな場所を見つけた時、親はありがたがって利用したいと考える。金銭的な負担が軽ければ、なおさらだ。
悪人は、こうして魅力的な場所を提示し、半ば追い詰められた、選択肢のない家族をピンポイントに狙っているとさえ思える、卑劣な手段を用いていた。
昨年、関東の男性小児科医が、学校検診の際に複数の小学生児童の下半身を執拗に触ったのではないかという騒動が起きた。小児科医は、地元での評判もいい年配の開業医だったが学校医を辞め、この騒動は事件化されなかった。医院はその後しばらく営業を自粛したが、いまは再開している。医院に子供を見せたことのある主婦は、いまも憤りを隠さない。
「小児科医や先生、放課後ルームの先生など、子供が好きなのは当然であり、私たちが”善人”だと思っていた方々にこういうことをやられると、もう何も信用できない」
冒頭にあげた事件で逮捕された男のものとみられるSNSには、自身が「小児性愛者」であることを伺わせる書き込みが見受けられた。子供と接する役割をまかせるには検討が必要な性癖を、必死で隠すこともしなかった男が、なぜ子育て支援サイトでシッターを務められたのか。
児童教育の現場からは「人が足りない」との悲鳴もあがるが、正規の教職員や保育士などを増員するのではなく、臨時職員を募集してしのぐ場合がほとんどだ。だからといって誰でも彼でも、それこそ猫の手だろうが犯罪者の手だろうが借りてよい、ということにはならない。だが現実には、入念なチェックをする余裕がなく、検討する時間と手間より、早く人員を増やして受け入れ子供数を増やすことが優先されている。
児童教育の現場だけではない。老人介護や障害者施設などでも、善人のはずだったスタッフや関係者が引き起こす痛ましい事件が後を絶たない。日本人が信じてやまなかった「性善説」に依拠して生き抜ける時代は、すでに終わってしまったかのようだ。危ういところで犯罪に巻き込まれずにすんだAさん家族も、いつまでも仕事の都合を無視し続けられないだろうから、近々、何らかの託児サービス利用を再検討しなければならないだろう。事件や事故に遭わないためには、運にまかせるしかない時代になってしまったのだろうか。