もちろん、プログラミング能力は十分条件ではないし、単なるコーディング能力(設計書や仕様書を基にコードとして記述していく作業)の問題でもない。プログラミングは、リアル社会とサイバー社会を結ぶ道具であり、「こういうことができたらいいな」と頭で考えたことを実現する手段だが、それを駆使して自分の構想を「見える化」することに意味がある。
一例として、100人の顧客を抱えている営業マンが、どの顧客を、どれくらいの頻度で、どんなルートで回ったら最も効率が良いのか―ということを考えるとしよう。プログラミングができない人は、自分の経験や勘に頼るしかない。
一方、プログラミングができる人は、顧客データをインプットしてAI(人工知能)に最適解をアウトプットさせることができる。つまり、答えを導き出すプロセスを「見える化」し、その先を見通すことができるのだ。さらにフェイスブックなどのネット上で見つけられる当該顧客の情報を訪問計画に連動させて入り込めれば、インパクトのある営業トークを繰り出せる。この差は極めて大きい。
優れた起業家や経営者というのは、小さい頃からそういった発想で物事を見る癖がついている。
たとえば、シスコシステムズのジョン・チェンバース会長(12月に退任予定)。彼自身はプログラミングが得意ではなかったが、新しい仕掛けを生み出す能力が卓越していた。わかりやすい例では、納品した機器が壊れたらサービスマンを派遣しなくてもネット経由で修理できてしまうシステムや、社員の出張経費精算をカード会社のアメックスに委託して間接業務とコストを大幅に削減するシステムなどを構築した。そうした改革によって売上高を40倍に伸ばしたのである。