「妻が先に死ぬなんてまったく考えていなかった。公正証書で遺言を作成するなど“自分が死んだ後”の準備はしていましたが、逆はまったく想定していませんでした」
そう語るのは、『70歳、はじめての男独り暮らし』(幻冬舎刊)の著者で、山口大学医学部眼科学教室教授、同大理事・副学長を歴任した西田輝夫氏(70)だ。同著では、西田氏自身が2年前に妻にがんで先立たれた体験を綴っている。
「妻が元気だった頃は、どんなに遅く帰宅しても食事が用意されていて、私は掃除や洗濯どころか、自分の書斎の整理さえしたことがなかった。毎日の服装もすべて妻が用意してくれていたので、いなくなった後は学会の出張の準備さえも一苦労でした。それだけじゃない。ATMの使い方や、役所の手続きに必要なハンコの場所すらも分からない。妻が亡くなって、私はすごく甘やかされていたのだと気づきました」
このように妻が“母”のような役割を担っているのは、団塊より上の世代では、決して珍しいケースではない。
妻を失った男性にまず大きくのしかかってくるのが家事だ。男の独り暮らしとなれば、カップ麺やコンビニ弁当など、手のかからない簡素な食事で済ませてしまいがちだ。しかし、そこには落とし穴がある。
「これは身体に悪いからダメ、野菜を取らなきゃダメと口うるさい妻がいなくなったので、つい好きなものばかり食べていたら、またたくまに10キロ太ってしまって、血圧も急上昇して、正常値を大きく超えてしまった」(70歳男性)