「医師は病気を治療することが使命であり、『手術すれば治る可能性がある病気』を見逃すわけにはいきません。脳梗塞などの脳血管疾患や心筋梗塞などの心疾患については、治療を受ければ元の生活に戻れる可能性が高いので、医師は治療を譲らないでしょう。

 個人の生き方を尊重すべきですが、これらの病気は『逃病』するメリットが少ないため、私も治療を受けるよう勧めます」(中村医師)

 逃病するなら、家族を説得する必要もある。

「家族が藁にもすがる思いで治療を懇願する場合があるため、お互いが納得できるまで話し合う必要があります。多くの患者を看取った身としては、70歳を超えたら闘いをやめて『逃病』して苦しみから解放されるべきと考えますが、そうした価値観を家族に受け入れてもらえるかどうかも大きなポイントです」(同前)

 2年前に胃がんが発覚した飲食店勤務の須網清弘さん(59)は、家族の理解を得たうえで治療を拒否している。

「医者からは進行を遅らせるために抗がん剤を勧められましたが、仕事を続けることでこれまでと同じ生活を守りたいと思ったので断わりました。

 いまは、家族との時間を大切にしています。抗がん剤の副作用がないため、孫と出かけたりできて毎日充実している。母からは『親より先に逝かないでよ』といわれているので、順番は守るためにもまだまだ長生きするつもりです」

「逃病」という考え方は、理想の「生き方」と「死に方」を叶える選択肢になり得るか。

※週刊ポスト2017年12月8日号

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