芸能

柴俊夫が勝新太郎から教えられた「リアルに演じる」の意味

2020年に役者歴50年になる柴俊夫

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、2020年に役者歴50年になる柴俊夫が勝新太郎や小林桂樹、田村高廣、河合義隆監督らと時代劇で交わったときの思い出について話した言葉を紹介する。

 * * *
 柴俊夫は1977年、勝新太郎主演のテレビ時代劇『新・座頭市』にゲスト出演している。

「六本木の飯屋で勝さんとお会いして、『リアルに演じるとはどういうことなのか』を一時間うかがいました。当時、僕は倉本聰さんのドラマに出ていて、そのことで悩んでいたんです。そんな時に座頭市を見て『なんでこの人はこんなに自然に演じられるんだろう』と思って。

 勝さんには『お前たちはセリフに負けている』と言われました。たとえば飯を食っている時に近くをイイ女が通ったらどうなるか。いくら旨い飯でも、そっちに目が行くだろう、と。『人間の感情ってそんなに一途じゃないよ』という言葉に『ああ、そうなんだ』と思えました。

 その後で『座頭市』に呼ばれた時は勝さんと面と向かって芝居をしました。勝さんは監督に『俺のアップはいらないから、こいつで行け』とおっしゃる。でも、僕ができないんです。勝さんに『それだけか』『もっとやってみろ』と言われても、できない。自分の程度をまざまざと見せつけられました」

 1982年にフジテレビの「時代劇スペシャル」枠でシリーズ化された『仕掛人・藤枝梅安』では、小林桂樹、田村高廣の両ベテランとチームを組む若者を演じた。

「小林さんのことは、僕は勝手に師匠と呼んでいます。ある時、シナリオについての愚痴を言ったら、小林さんに『シナリオがつまらなくても面白くするのが役者だよ』と言われました。

 それから役作りについて、いろいろ聞きました。考え方が僕なんかとは違いますね。小林さんは大役者なのに、芝居をいじらない。監督の要求、シナリオの要求通りにキチンと飲む。

 小林さんは特別なことをやらずに、オーディナリーな人々を自然に演じる。ですから、普段もスターのラインを行く人ではありません。全てご自分でやる。車も運転手をつけないので、それを見て僕も恥ずかしくなってやめました。僕も小林さんみたいな芝居がしたいですから。

 田村さんには時代劇のことを教わりました。印象的なのは『ぼんのくぼで見る』という言葉です。相手と対面してる場面でアップになった時の目線の話なのですが、カメラを見るんじゃなくてその先にいる人間の存在を意識する、ということです」

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