ついでに言えば、冷静になったのはデザインだけではない。クルマの性能についても、これまでのマツダ車はハンドリングのために他のファクターを少なからず犠牲にするようなところがあったのだが、現行CX-5ではその傾向が大幅に薄まった。一点豪華主義ではなく、静粛性、乗り心地などにもリソースを割く、バランス型のチューニングになったのだ。
と言って、丸くなった、つまらなくなったわけではない。ハンドリングが重要という考えをしっかり持っていさえすれば、そこを過剰に自己主張せずともそれはクルマづくりにちゃんと表れるのだということを、開発陣が肌身で感じ取ったのであろう。これも一度、やりたいように思い切りやってみたからこその成果と言える。
日本の自動車メーカーはスクラップアンドビルドの気質が色濃いためか、進化より変化を好む傾向がある。そのなかでマツダが進化らしきものを提示しはじめたことは、2017年の日本の自動車業界の動向のなかで、とりわけ興味深く感じられた。
冒頭で述べたように、クルマは今、大変革の時期にあるのは確かだ。が、百人百様のライフスタイルがある自由主義の世の中では、かりにEV、自動運転、カーシェアの時代が着ても、クルマの多様性への要求はなくならないだろう。
その基本となるいいクルマづくりの競争はこれからも続く。2018年、どのメーカーがどんな妙手を打ってくるか、楽しみなところだ。
■文/井元康一郎(自動車ジャーナリスト)