ヒューリックの原点は旧富士銀行(現・みずほ銀行)の銀行店舗ビル管理である。かつての大手都市銀行は大抵、駅直結か駅近の好立地に銀行店舗の入ったビルを擁していたから、ヒューリックもそれなりの収益は上げていた。だが、その後金融ビッグバンの中でメガバンクが続々と誕生し、旧富士銀行も、旧第一勧業銀行、旧日本興業銀行と経営統合している。
3行統合ともなれば当然、リストラの過程で店舗の統廃合が行われ、不良債権物件の削減の過程ではその引き受け役という、しわ寄せがヒューリックにも押し寄せた。
そんな中、2006年にみずほ銀行副頭取からヒューリック社長に転じたのが西浦三郎社長(現会長)で、前述した社名変更を着任翌年の2007年に実施するなど、同社のビジネスモデルを根本から変えていったとされる。以前、ヒューリックの幹部はこう語っていた。
「当社の戦略は、好立地の老朽化した自社物件を建て替えて、付加価値を付けて賃料を増やしていくということなのです」
既存の所有物件を建て替えて高層化し、増えた床面積をオフィステナントや商業テナントに貸し出して家賃収入を増やしていくというわけだ。その代表例が、都心の中でも最重点エリアの1つで多くの所有物件を持つ銀座で、晴海通りを挟んでソニービル(現在は取り壊し中)の正面にある、「ヒューリック銀座数寄屋橋ビル」といっていい。
同ビルはもともと旧富士銀行の支店が入っていた物件だが、建て替えて2011年に竣工。ビル1階には米国衣料チェーン大手の「GAP」の旗艦店がテナントで入っており、翌2012年にも「リクルートGINZA7ビル」をリクルートから購入している。
ほかにも、銀座1丁目にある同社のビルが、すでに築40年以上が経過していることからいずれ建て替え計画が出てくるものと目され、銀座という場所柄、オフィスでなく外資系の高級ブランド店に貸すことができれば、オフィス賃貸に比べて何倍もの賃料が取れるというわけだ。特にヒューリック銀座数寄屋橋ビルが竣工した2011年以降、同社の攻勢は目に見える形で増え、ジワジワと存在感が高まってきた。
現在、オフィス賃貸のほかに注力している分野が、観光ビジネス(ホテルや旅館)、高齢者ビジネス(高齢者施設や介護、医療など)、環境ビジネス(メガソーラーや農業)で、3事業の頭文字から社内では「3K」と呼ばれている。
特に最初の観光事業は異色だ。たとえば、ヒューリックが初めて手がけたホテルが東京・浅草にある「ザ・ゲートホテル雷門」(2012年8月開業)。当地も、もともと旧富士銀行の店舗があった場所だが、雷門支店が3行統合で閉鎖対象店舗になったことから建て替え用途を検討。浅草は観光地でもあるためホテル用途を選択したのだが、自社でホテル運営ノウハウを積むため、直営ホテルとしている。
前後して2010年には有楽町にあった「ニュートーキヨービル」を5年後に取得する契約を締結。さらに2012年、同ビルに隣接したビルも取得し、購入した2つの土地を1つのホテルで使用するため、容積率も緩和されるなどのメリットがあった。当地でも今秋、自社運営ホテルが開業予定だが、浅草も有楽町も宿泊特化型で、宴会場や大規模レストランなどを付帯せず、採算性の高い宿泊ビジネスに絞ったホテルにしているのが特色だ。