古くから「ヤマタノオロチ伝説」などの神話で知られる奥出雲地方は、千年以上前から受け継がれてきた製鉄技術『たたら製鉄』が2016年に日本遺産に認定された製鉄の町でもある。神話の国がいかにして鉄の国に発展したのか。今回はその歴史をたどる。
島根県の東南部に位置し、中国山脈に囲まれた奥出雲地方は、『鉄の国』として発展してきた。
「江戸時代から明治時代にかけて、『たたら製鉄』と呼ばれる鉄づくりが盛んでした。このエリアには日本刀づくりに欠かせない、良質な砂鉄を含む花崗岩(真砂土)が広く分布しており、燃料の木炭を得るための森林も広大で、鉄を溶かすための炉づくりの材料となる良質な土も多く採れたのです」(観光案内人の吉田ふるさと村観光事業部・石原秀寿さん)
ちなみに“たたら”とは、鉄をつくる際に火力を強めるために使う鞴(ふいご)という、足で踏んで空気を送る器具を指す。
たたら製鉄は明治初期までは栄えたものの、時代とともに西洋の技術に押され、終戦後には幕を下ろすことに。だが、当時その中心的存在だった『田部家』の土蔵や、たたら製鉄従事者が暮らした集落である『菅谷たたら山内』には、今も長屋が軒を連ね、当時の面影を残している。
「特に山内の“高殿(たたら炉のある建物のこと)”は、日本で唯一残る建物で、国の重要有形民俗文化財に指定されています。映画『もののけ姫』(1997年)に登場する“タタラ場”のモチーフにもなっているんですよ」(石原さん)
こけら葺ぶきの美しい屋根が印象的な高殿の天井の高さはなんと9m! 中央には粘土づくりの炉があり、両サイドには木炭置き場が、奥に砂鉄置き場がある。
菅谷たたら山内の高殿は、大人300円、小・中学生200円で見学できる(月曜休、祝日の場合は翌火曜休)。
1回の操業には村下と呼ばれるリーダーの下、10名以上が従事し、木炭約13t、砂鉄約12tを使用。炉からは1~2mの炎が立ち上り、3日3晩、燃え続けたそうだ。それでできる鉄の塊(ケラ)は3.7tほどだったとか。
高殿内に入ると、炉の存在感に圧倒され、砂鉄づくりの迫力を肌で感じることができる。
撮影/浅野剛
※女性セブン2018年2月1日号