また、北朝鮮が核武装を完遂し米国本土への核攻撃の能力を得れば、米国の日本など同盟国への「核の傘」(拡大核抑止)が効果を失うという説がある。この説は、同盟国の敵が米国本土を核攻撃できる能力を持てば、米国は自国への核攻撃を恐れて、同盟国への核攻撃や脅しへの報復ができなくなる、という理屈だが、私は反対の意見だ。それは歴史を無視しているからだ。
東西冷戦中、米国は常にソ連の核攻撃を受け得る状態にあった。だが米国は同盟国の日本をソ連から守るために「核の傘」の存在を誓約してきた。相手が北朝鮮となっても、この構図は変わらないはずだ。米国の同盟国への拡大核抑止はいつも揺るがずにそこに存在する。
日本にとって最大の問題は、アメリカが先制予防攻撃へと動かない可能性が生じる場合だ。トランプ大統領が軍事的選択を欲しても、政権内の国防総省はマティス長官の下、北に対して軍事力を使うことには強く反対の意向を固めている。実際に反撃や報復をしてこない敵だけとしか戦わないという状態に慣れすぎてしまったのだろう。
残された時間は少ない。この期間内にトランプ政権が北朝鮮に対して核武装阻止のための予防攻撃をするか否かの大詰めとなってきた。間違いなく言えることは、日本はF15などの追加装備を購入し、先制攻撃能力を保有することで、自国防衛の本気度を示すべきということだ。
【PROFILE】Edward N. LUTTWAK/1942年、ルーマニア生まれ。ロンドン大学、米ジョンズ・ホプキンス大学で学び、国防省長官府任用。現在は戦略国際問題研究所(CSIS)上級アドバイザー。『中国4.0』『戦争にチャンスを与えよ』など著書多数。
●取材・構成/古森義久(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)
※SAPIO2018年1・2月号