──その後、虐待で親から離れて施設で育つ子どもを描いた『子どもたち!~今そこにある暴力~』を描かれました。モデルとなった児童養護施設「暁学園」を取材する中で、特に記憶に残ったことはありますか?
曽根:そこの施設長が祖父江文宏さん(故人)という、児童養護の世界では革新的な素晴らしい方だったのですが、その方の「“暴力”は頭が良い」という言葉が強く印象に残っています。子どもは(大人も)脅されたり痛めつけられたりすると、恐怖で簡単に心を縛られてしまいます。
分かりやすく言えば、「親が子に」「職員が児童に」言うことをきかせたければ、一発殴れば相手は簡単に服従するのです。そして、殴られた側は「怖いけど、言うことをきけば、たまに優しくしてもらえる」と思い、相手の顔色を見ながら時に親しんでいく人間になります。それが継続すると、殴られていなければ不安──という人間関係に“安心”し、そこから抜け出せなくなります。
暴力は、使う人にも使われる人にも、強い依存性を持つのです。このように、暴力は人の心に染み入り根を張って増殖するため、祖父江さんは“頭が良い”と表現されたのだと思います。
──社会の認知が進んだこともあり、虐待の通報は増加しています。20年前では年間4000~5000件だった児童相談所への相談件数が、2016年度には12万件を超えました。虐待に関して社会の変化を感じることはありますか?
曽根:社会の大人が「虐待」を認識したために、通報などのアクションが増えたと思いますが、虐待自体は20年前と件数は変わらないのではないかと思います。私が育った時代は、虐待や家族の問題は外に出したり相談したりするものではない、という風潮でした。ですが、今は目の前の暴力が「虐待」であると社会の理解が広まったと思います。それは、良いことだとも思っています。
──昨年末、大阪・寝屋川で33歳長女監禁・死体遺棄事件が起きました。小学校6年の3学期から姿が見えなくなったということでした。親が世間から子どもを隠してしまう、あるいは消えてしまう案件は多いとされます。すべてが虐待に繋がるわけではないですが、統計によると、居所不明児童は2900人を超えると言われています。それに近い虐待として、子どもの置き去り事件もあります。
曽根:自分が放っておいている子どもが、お腹を空かし、恐怖や不安で震えたり、親を求めて泣いていたりする……その姿を想像出来ない大人がいる。それが一番怖いと思います。同様に、周囲でそんな子どもたちの気配を多少でも感じながら、関心を持つ大人がいない、気づいても傍観者でしかない大人が多い。それも含めて怖いですね。