ビジネス

ソニー社長交代 乗りに乗っていた平井氏が潔く身を引く理由

4月に代表権のない会長に退く平井一夫・ソニー現社長

 ソニーは4月1日付で吉田憲一郎副社長兼最高財務責任者(CFO)が社長兼最高経営責任者(CEO)に昇格する人事を発表した。現社長の平井一夫氏は代表権のない会長に退くことになったが、直近の好業績で復活を印象づけてきた矢先だっただけに、このタイミングでの社長交代には驚きの声も広がった。平井氏の潔さの裏にはどんな思いがあったのか。長年ソニーを取材してきた『経済界』編集局長の関慎夫氏がレポートする。

 * * *
 このタイミングでのソニー・平井社長の引退を予想していた人は社内にもほとんどいなかった。

 就任は2012年4月1日だから丸6年での交代は、よくあるパターンということはできる。しかし就任時、最悪の状態にあったソニーを思い切った構造改革によって立て直し、今3月期には過去最高益を見込むなど、ようやくその成果が表れてきた。1月には一度撤退したロボット犬「アイボ」を再発売するなど、やりたいことができる環境が整ってきた。

「乗りに乗っている」というのが最近の平井評であり、そのためもうしばらくは社長の座にとどまる、あるいは仮に社長を降りることがあっても会長兼CEOとして実権は握り続けると思われていた。ところが平井氏は代表権のないか会長となり、自分の役割を後任の吉田憲一郎社長兼CEOの補佐と位置づけている。

 なぜ、このタイミングですべてを後継者に渡さなければならなかったのか。それは「好業績を収めつつあり、社内外に元気なソニーをアピールできている今こそ新社長にバトンを渡すのが最適なタイミングと考えた」との、交代会見における平井氏の言葉にすべてが込められている。

 今回のような、平和的かつ適切な時期でのトップ交代は、1976年の盛田昭夫氏から妹婿の岩間和夫氏へのバトンタッチ以来42年ぶりのことだ。

 その岩間氏は5年後に癌により63歳の若さで亡くなり、急遽、社長に就いたのが大賀典夫氏。大賀氏は1995年まで14年間社長を務めるが、途中で有力後継候補の不祥事などもあり、適任者を見つけられなかったことが長期政権となった。その上で「消去法で選んだ」(大賀氏)出井伸之氏に社長を譲った。

 出井氏は5年後に会長となるが、CEOとして君臨し続ける。しかしITバブルの崩壊や液晶テレビの出遅れが響き業績を悪化させ、2005年、無念のうちにCEOの座をハワード・ストリンガー氏に渡さざるを得なかった。

 そのストリンガー氏もソニーを立て直すことができず、最後は指名委員会に引導を渡されて、ソニー史上最悪の赤字を残してソニーを去っていった。その後任として社長兼CEOになったのが平井氏だった。

 このように過去のソニーのトップ交代は突発的なものばかり。しかも過去2回は業績悪化によって石持て追われるかのような交代劇が繰り返されてきた。

 そのような社長交代が後継者の行動に大きな制約を与えることを、平井氏は身をもって知っている。自分の後任にだけはそのような思いをさせたくない。このタイミングなら新社長も思い切って手腕を振るえる。しかも史上最高益の花道も用意できた。それが平井氏の決断を後押しした。

 問題は、吉田新社長がその期待に応えることができるかどうかだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

麻薬取締法違反で逮捕された俳優の清水尋也容疑者(26)
《同居女性も容疑を認める》清水尋也容疑者(26)Hip-hopに支えられた「私生活」、関係者が語る“仕事と切り離したプライベートの顔”【大麻所持の疑いで逮捕】
NEWSポストセブン
当時の水原とのスタバでの交流について語ったボウヤー
「大谷翔平の名前で日本酒を売りたいんだ、どうかな」26億円を詐取した違法胴元・ボウヤーが明かす、当時の水原一平に迫っていた“大谷マネーへの触手”
NEWSポストセブン
麻薬取締法違反で逮捕された俳優の清水尋也容疑者(26)
【大麻のルールをプレゼンしていた】俳優・清水尋也容疑者が“3か月間の米ロス留学”で発表した“マリファナの法律”「本人はどこの国へ行ってもダメ」《麻薬取締法違反で逮捕》
NEWSポストセブン
サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(X、時事通信フォト)
大麻成分疑いで“ガサ入れ”があったサントリー・新浪剛史元会長の超高級港区マンション「かつては最上階にカルロス・ゴーンさんも住んでいた」
NEWSポストセブン
賭博の胴元・ボウヤーが暴露本を出版していた
大谷翔平から26億円を掠めた違法胴元・ボウヤーが“暴露本”を出版していた!「日本でも売りたい」“大谷と水原一平の真実”の章に書かれた意外な内容
NEWSポストセブン
清武英利氏がノンフィクション作品『記者は天国に行けない 反骨のジャーナリズム戦記』(文藝春秋刊)を上梓した
《出世や歳に負けるな。逃げずに書き続けよう》ノンフィクション作家・清武英利氏が語った「最後の独裁者を書いた理由」「僕は“鉱夫”でありたい」
NEWSポストセブン
ロコ・ソラーレ(時事通信フォト)
《メンバーの夫が顔面骨折の交通事故も》試練乗り越えてロコ・ソラーレがミラノ五輪日本代表決定戦に挑む、わずかなオフに過ごした「充実の夫婦時間」
NEWSポストセブン
サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(時事通信フォト)
《麻薬取締法違反の疑いでガサ入れ》サントリー新浪剛史会長「知人女性が送ってきた」「適法との認識で購入したサプリ」問題で辞任 “海外出張後にジム”多忙な中で追求していた筋肉
NEWSポストセブン
サークル活動にも精を出しているという悠仁さま(写真/共同通信社)
悠仁さまの筑波大キャンパスライフ、上級生の間では「顔がかっこいい」と話題に バドミントンサークル内で呼ばれる“あだ名”とは
週刊ポスト
『週刊ポスト』8月4日発売号で撮り下ろしグラビアに挑戦
渡邊渚さんが綴る“からっぽの夏休み”「SNSや世間のゴタゴタも全部がバカらしくなった」
NEWSポストセブン
米カリフォルニア州のバーバンク警察は連続“尻嗅ぎ犯”を逮捕した(TikTokより)
《書店で女性のお尻を嗅ぐ動画が拡散》“連続尻嗅ぎ犯” クラウダー容疑者の卑劣な犯行【日本でも社会問題“触らない痴漢”】
NEWSポストセブン
寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《お出かけスリーショット》小室眞子さんが赤ちゃんを抱えて“ママの顔”「五感を刺激するモンテッソーリ式ベビーグッズ」に育児の覚悟、夫婦で「成年式」を辞退
NEWSポストセブン