「日本の場合、ロングランといってもずっと続くわけじゃない。必ず間が空きます。僕は忘れっぽいものですから、前回の公演でやったことを忘れたりするんです。今度の『ラ・カージュ』もそうです。忘れて、また一から本を読みなおしてセリフも覚え直す。それで、いつも前と違ったものになるんです。『また一から作ろう』という意識は、『レ・ミゼラブル』をやっている時からそうでした。
『ラ・カージュ』はコメディです。コメディの場合、お客さんの笑い声が物凄く力になります。一日二公演もやるとヘトヘトにはなりますが、お客さんに喜んでもらえると、やっぱり楽しくなってくるんですよね。
コメディで大事にしているのは心のリアリティです。表面的な面白さだけでなく、心の揺れ具合や人間の持っているおかしさを繊細に出す。自分の心理状態を細かくしっかり捉えて、それが見えるよう舞台でやりたいとはいつも思っています。
ミュージカルの魅力は歌の力です。ストレートプレイでも『ここで歌が入ったらいいな』と思う時もあるくらいで。十分しゃべらないと伝わらないことが、歌なら二、三分で伝わる。それだけの力があるんですよね」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
●撮影/藤岡雅樹
◆鹿賀丈史×市村正親主演ミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』日生劇場(3月9~31日)などで全国公演
※週刊ポスト2018年2月16・23日号