続いては春風亭一之輔の『富久』。古今亭系統の演出に一之輔特有のダイナミックな感情表現を導入、運命に翻弄される幇間の姿を劇的に描いた。前半の火事見舞いの場面でこの久蔵という幇間が「酒には弱いが愛すべき男」として表現されているのが後半の展開に活きている。
3席目は桃月庵白酒の『居残り佐平次』。口がうまくて調子がいい佐平次の抜群の軽さが魅力だ。ラストは佐平次が「この金で蕎麦屋でもやろう」と言い捨てて去り、それを知った旦那の「蕎麦屋? 畜生、一杯食わせやがった」でサゲ。このルーツは亡き古今亭石朝だという。
毎年トリはこの人と決めている橘家文蔵、今回の演目は『らくだ』。強面の豪快キャラと繊細な演技が相まって迫力満点、屑屋が単なる被害者ではなく少々変わり者に描かれていてカラッと笑える。立場が逆転して途端に弱気になる丁の目の半次が可愛く見えるのが素敵だ。
四者四様、聴き応え満点のスペシャルな一夜となった。今年の暮れもこの4人が揃う予定だ。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年3月2日号