高齢になると、体の機能が低下するが、特にアルツハイマー型認知症の場合は初期から嗅覚の異常が見られ、認知症の重度化とともに嗅覚も低下するという。
今、よい香りで嗅覚を刺激し、認知症や介護予防、改善にも役立てようというアロマセラピーが注目されている。在宅や施設、病院などでメディカルアロマセラピーを行う、所澤いづみさんに聞いた。
「老化で衰え始めた嗅覚は、意識して鍛えることで、ある程度の改善も見込めます。ティッシュやハンカチなどに精油を含ませて行う芳香浴で、繰り返し刺激します」
芳香浴とは、しっかりと香りの刺激が得られる方法。たたんだティッシュ、ハンカチなどに精油を1~2滴ほど含ませ、鼻に近づけて深呼吸する。胸ポケットやブラジャーの内側などに入れておけば、常時、香りを楽しめる。
「実際に私がアロマセラピーを行った認知症対象のデイサービスでも、最初はまったく香りを感じなかった人たちが、週1~2回ずつ1~2か月続ける間に少しずつ感じ始め、芳香浴を楽しみにしたり、または『このにおいは嫌い』と、香りを認識し、意思表示できるようになりました。自分にとって好きか心地よいか、あるいはそうでないかを感じられることが大切なのです。
今、嗅覚の衰えを感じている人、その兆候がある親御さんも、あきらめずに香りの刺激を試してみてください」
ただし稀に、香りの刺激が苦手という人もいるという。そんなことからも、心地よく香りが楽しめるかどうかを、まず確認したい。
所澤さんのご両親も認知症だった。10年に及ぶ介護生活の中で、家族としてアロマセラピーを施せたことが何よりうれしかったという。
「父も母も芳香浴やマッサージを受けながら、よく気持ちよさそうに居眠りをしていました。父が亡くなる少し前、アロマセラピーの後で『生き返るようだな』と言ってくれたことが本当にうれしく、心に残っています。
アロマセラピーは、ケアをする人、一緒にいる人もともに癒され、香りの効果が得られるところがよい点です。介護生活は何かとストレスが多く、また排泄物などで家の中に嫌なにおいが出やすく、気持ちが落ち込みやすい環境なのです。ぜひ香りを生活の中にうまく取り入れてください。
もちろん、ひとりで行ってもアロマセラピーの効果はありますが、家族や、介護者とともによい香り、好きな香りを共有し、『いいにおいだね~』と楽しめば、さらによい効果が期待できると思います」
※女性セブン2018年3月8日号