国内

認知症母「高齢者って人の役に立てるのが一番嬉しい」の真意

「役に立ちたい」との高齢者の思い(写真/アフロ)

 認知症の母(83才)の介護をするN記者(54才・女性)。母の生きがいに触れる発言に触れ、心が動いたという。

 * * *
 昨年秋、この『伴走介護』で紹介した料理のデイサービス(なないろクッキングスタジオ成城)取材の際、認知症もあるがまだまだ元気な高齢者として、母に体験モデルになってもらったことがある。

 デイサービスのコンセプトは、頭や手先を使う料理を“リハビリ”としてとらえたもの。長年主婦をやった人なら、たとえ認知症でも、体が包丁さばきを覚えている。料理を完成させることで、自信にもなるというものだ。

 20代の調理スタッフに指導されながら、母と数人の体験入会の高齢者が見事なちらし寿司を完成させ、見学に来ていたケアマネさんたちも驚きと絶賛の声を上げた。私も正直、3年も料理をしていない母の料理の出来にかなり驚き、母も満足げで、デイサービスの狙いどおり、よいリハビリになっているという記事を書いた。いい取材になった。

 最後に参加者全員で、作った寿司を試食していると、「さすがの包丁さばきでしたね。お疲れはありませんか?」と、調理スタッフのお嬢さんが笑顔で話しかけてくれた。

「ありがとうございます。楽しかったわ」とごきげんな母。そして、こう続けた。

「高齢者って人の役に立てることがいちばんうれしいの。今日はうれしかった」と。

 あれ? 若干、話がかみ合っていない…と思ったが、お嬢さんも一瞬、キョトンとしながら笑顔で去っていったので、その場は収まった。

「ねえ、今のどういう意味? 料理を楽しませてもらったのに、誰の役に立ったの?」

 お嬢さんがいなくなると、すかさず私は問いただした。認知症の人に、発言の矛盾をついてはいけないのが鉄則だが、母にはつい言ってしまう。

 すると母は間髪入れずに、「もちろんNちゃんのよ! これ、Nちゃんのお仕事でしょ? あのお嬢さん(調理スタッフ)も若いのに一生懸命やってて感心しちゃったわ」

 またまたかなり驚いた。母は昔から、私の仕事については興味なさげに振るまうし、取材ということも説明はしたが、すぐに忘れてしまうものと思っていた。そういえば母は、普段通っているデイケアのスタッフのことも同じようにほめる。

「Nちゃんより若いのに、老人相手に熱心にやってくれるの。がんばれと言われるから、期待に応えなきゃと思って」

 母は介護サービスを受けながら、子供か孫のような介護職の人たちの仕事に“協力”しているつもりなのだ。

 こんな思い出もある。私がフリーになった頃、仕事でひとり立ちしたことを母に自慢し、心の奥底ではちょっとほめてもらいたくて、寿司をごちそうした。母がただただ喜ぶとばかり思っていたら、

「ちゃんとお金もらえてるの? 払ってくれないところがあったらママが取り立ててやる!!」と、品のいい寿司店にそぐわない叫び声。私も同じ勢いで怒り返し、せっかくの食事が台なしになったが、私も娘を持つ母として年を重ねるうち、母の思いが理解できるようになってきた。

 80才を超えても、認知症になっても、母は娘の役に立ちたいものなのだ。

※女性セブン2018年3月15日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《不倫報道で沈黙続ける北島康介》元ボーカル妻が過ごす「いつも通りの日常」SNSで垣間見えた“現在の夫婦関係”
NEWSポストセブン
秋篠宮家の長男・悠仁さまの成年式が行われた(2025年9月6日、写真/宮内庁提供)
《凜々しきお姿》成年式に臨まれた悠仁さま 筑波大では「やどかり祭」でご友人とベビーカステラを販売、自転車で構内を移動する充実したキャンパスライフ
NEWSポストセブン
中途採用応募者が急に増えて担当者は困惑(写真提供/イメージマート)
《SNSの偽情報で実害》中途採用に「条件満たさない」応募者が激増した企業、勝手にFラン認定された大学は「少子化の中、学生に来てもらう努力を踏み躙られた」
NEWSポストセブン
趣里(左)の結婚発表に沈黙を貫く水谷豊(右=Getty Images)
趣里の結婚発表に沈黙を貫く水谷豊、父と娘の“絶妙な距離感” 周囲が気を揉む水谷監督映画での「初共演」への影響
週刊ポスト
日本復帰2戦目で初勝利を挙げたDeNAの藤浪晋太郎(時事通信フォト)
横浜DeNA・藤浪晋太郎を大事な局面で起用する三浦大輔監督のしたたかな戦略 相手ファンからブーイングを受ける“ヒール”がCSの行方を左右する
週刊ポスト
宮路拓馬・外務副大臣に“高額支出”の謎(時事通信フォト)
【スクープ】“石破首相の側近”宮路拓馬・外務副大臣が3年間で「地球24週分のガソリン代」を政治資金から支出 事務所は「政治活動にかかる経費」と主張
週刊ポスト
15人の大家族「うるしやま家」(公式HPより)
《ビッグダディと何が違う?》フジが深夜23時に“大家族モノ”を異例の6週連続放送 今、15人大家族「うるしやま家」が人気の背景 
NEWSポストセブン
自身のYouTubeで新居のルームツアー動画を公開した板野友美(YouTubeより)
《超高級バッグ90個ズラリ!》板野友美「家賃110万円マンション」「エルメス、シャネル」超絶な財力の源泉となった“経営するブランドのパワー” 専門家は「20~30代の支持」と指摘
NEWSポストセブン
高校ゴルフ界の名門・沖学園(福岡県博多区)の男子寮で起きた寮長による寮生らへの暴力行為が明らかになった(左上・HPより)
《お前ら今日中に殺すからな》ゴルフの名門・沖学園「解雇寮長の暴力事案」被害生徒の保護者らが告発、写真に残された“蹴り、殴打、首絞め”の傷跡と「仕置き部屋」の存在
NEWSポストセブン
濱田よしえ被告の凶行が明らかに(右は本人が2008年ごろ開設したHPより、現在削除済み、画像は一部編集部で加工しております)
「未成年の愛人を正常に戻すため、神のシステムを破壊する」占い師・濱田淑恵被告(63)が信者3人とともに入水自殺を決行した経緯【共謀した女性信者の公判で判明】
NEWSポストセブン
指定暴力団山口組総本部(時事通信フォト)
《外道の行い》六代目山口組が「特殊詐欺や闇バイト関与禁止」の厳守事項を通知した裏事情 ルールよりシノギを優先する現実“若いヤクザは仁義より金、任侠道は通じない”
NEWSポストセブン
志村けんさんが語っていた旅館への想い
《5年間空き家だった志村けんさんの豪邸が更地に》大手不動産会社に売却された土地の今後…実兄は「遺品は愛用していた帽子を持って帰っただけ」
NEWSポストセブン