第七十六条二項は「特別裁判所」の設置禁止を定めている。特別裁判所とは「軍法会議」すなわち軍裁判所のことである。近代国家における軍隊には、必ずこうした軍司法が存在する。そうでなければ軍隊は混乱に陥り、戦争はできない。攻撃あるいは逆に防禦において、相手を殺傷した場合、また第三者を殺傷してしまった場合、さらに相手の物品や建造物を破損した場合、またそれらが第三者の所有物であった場合、さらには戦場でしばしば起きる戦争犯罪、これらは通常の刑法・刑事訴訟法では処断できない。まさに戦争はC・シュミットの言う「秩序の例外状況」だからである。
事実上の軍隊である自衛隊は、出自が警察予備隊であることからも分かるように、法的には一種の警察のような扱いを受けている。軍も警察も「国家の暴力装置」でありながら、その権能・態様はちがう。警察は「警察比例の原則」により、相手に相応する武力行使しかできない。自衛隊にも自衛隊法とともに警職法が準用される。
日本国憲法は、第九条のみならず、こんなところにも戦争への歯止めを仕掛けている。しかし、改憲派はこれを知っているから論じたがらないし、護憲派は知らないから論じない。物語のあるなしより、こちらの方がよほど重要ではないか。私の学生時代、『戦争を知らない子供たち』という歌が流行った。戦争を知らないことは自慢にならないし、最悪の戦争を招きかねないと私は思った。
●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。著書に『バカにつける薬』『つぎはぎ仏教入門』など多数。
※週刊ポスト2018年3月23・30日号