上田:ただ、目の部分が見えるようになっても、視界は極端に狭い。着ぐるみ経験の浅い人は慣れるまで、そこがしんどいみたいです。頭が大きくて目が下寄りについていると、下しか見えませんし、逆に上寄りだと、子供たちがお腹の方にワーッと集まってきてもわからない。下手したら、足元にいる子を転ばせてしまう。製作側としてはクライアントが許す限り、視界を広くとれるようなデザインを心がけています。
伊藤:頭部を軽くしたい時は、バイクのヘルメットに使う強化繊維プラスチック素材を使うこともありますが、ゴージャスな素材なのでヘッドだけで、50万円ほどかかります。一般的には1体60万円ほど。パーツに凝ると、100万円ほどになるケースもあります。
◆リクエストナンバーワンは「暑さをしのぎたい」
――視野の狭さも問題だが、多くの“中の人”が悩むのはやはり暑さ。熱がこもったなかで動けば、大量の汗が出るのは当然のこと。すると、気になるのは…。
伊藤:製作の依頼を受ける時に圧倒的に多いのが、「暑くないようにしてほしい」というリクエストです。胴体部分にはウレタンのスポンジ素材を使うのが一般的ですが、暑さ対策でより気泡の大きいフィルター素材を使うこともあります。素材の単価は桁が1つはね上がりますが、通気はいい。裏地には汗をよく吸い、濡れても乾きやすいスポーツメッシュやニットを使用。快適な着心地を追求しています。
上田:暑さと連動するのが汗です。そしてその先にあるのがにおい問題。以前、おそろしくにおう着ぐるみに入ったことがあります(笑い)。着ぐるみは、脱いだら干すのがお手入れの基本なのですが、ビニールが湿気で曇るほど密閉して保存されていて…。おそるおそる開けたら、びっしり白と緑のカビが生えていました。
においは「うわ、くさっ」なんてもんじゃない。登場まで1時間しか時間がなかったので雑巾でとれるカビはとって、洗える部分は洗って。それでも消えるようなにおいではない。口元にタオルを巻いた上で頭巾をかぶり、カビだらけの着ぐるみに入ってステージに立ちました(苦笑)。
伊藤:素材の追求も大切ですが、やはり日頃のお手入れもかなり重要なんです。
※女性セブン2018年4月12日号