ライフ

西郷隆盛の知られざる史実 陰嚢肥大に最後まで苦しめられた

西南戦争の敗因の一つは健康問題だった?(時事通信フォト)

 NHK大河ドラマ『西郷どん』の主人公・西郷隆盛。維新の立役者でありながら、後に明治政府に反旗を翻した悲劇の英雄、というのが一般的な西郷像だろう。しかし、写真が一枚も残っていないなど、その実像は謎が多い。歴史作家の島崎晋氏が、晩年の西郷の知られざるエピソードを紹介する。

 * * *
 西郷隆盛は新政府の重鎮ではあったが、外交方針の違いから政府内で孤立して、明治六年(一八七三)に下野(げや)していた。それからは鹿児島に戻り、後進の育成に専念していたが、士族の特権が次々と剥奪され、各地で士族による反乱が相次ぎ、鹿児島でも新政府への不満が高まる状況下の明治一〇年(一八七七)二月、我慢の限界を超えた強硬派に擁立され、反乱に踏み切ったのだった。これを西南戦争という。

 西郷隆盛はこのとき五一歳。人望篤く、実戦経験も豊富なだけに、新政府からもっとも危険視されていた。参加した士族の多くも戊辰戦争を経験しており、そんな彼らの地元である鹿児島で反乱が勃発したのだから、天下を覆しかねない一大事に違いなかった。

 ところが、案に相違して、反乱軍の快進撃は長くは続かず、熊本城さえ陥落させることができなかった。ぐずぐずしているところへ、徴兵された兵士からなる征討軍(反乱軍はこれを東軍と呼んだ)が到着。田原坂(たばるざか)の戦いに敗れてからの反乱軍は押されるいっぽうで、同年九月二四日、西郷隆盛が鹿児島の城山(しろやま)で自刃したことにより、西南戦争は終わりを告げた。

 倒幕の戦いで主力を担った薩摩の勇士たちが、士族ではない者たちからなる征討軍に敗れた。時代の流れと言ってしまえばそれまでだが、実は西南戦争の全局面を通じて、西郷隆盛自身が精彩を欠いていた。

 敗北を承知のうえで頭領を引き受けたとはいえ、本来の実力を存分に発揮していれば、もっと長く戦えたはず。それができなかったのは、西郷の健康状態に起因していた。

 いつからかははっきりしないが、西郷は象皮病という九州南部に多い風土病に悩まされていた。寄生虫による病気で、感染すると皮膚が腫れ上がったうえ、象のそれのようにざらざらになる。これに感染した西郷は陰嚢(いんのう)が肥大化して、一人で歩くことさえままならない状態にあった。西郷隆盛は一枚として写真を残していないことでも知られており、そのため遺体の確認も肥大化した陰嚢が決め手となったのだった。

※島崎晋・著『ざんねんな日本史』(小学館新書)より一部抜粋

【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『日本の十大合戦 歴史を変えた名将の「戦略」』(青春新書)、『一気に同時読み!世界史までわかる日本史』(SB新書)、『知られざる江戸時代中期200年の秘密』(じっぴコンパクト新書)など多数。

関連記事

トピックス

サインと写真撮影に応じ“神対応”のロバーツ監督
ドジャース・ロバーツ監督が訪れた六本木・超高級和食店での“神対応” 全員のサインと写真撮影に応じ、間違えてファンの車に乗ってしまう一幕も
週刊ポスト
元SKE48の江籠裕奈
【元SKE48でいちばんの愛されっ子“えごちゃん”】江籠裕奈が大人の新境地を魅せた「新しい私が写っていると思います!」
週刊ポスト
大村崑さん、桂文枝師匠
春場所の溜席に合計268歳の好角家レジェンド集結!93歳・大村崑さんは「相撲中継のカット割りはわかっているので、映るタイミングで背筋を伸ばしてカメラ目線です」と語る
NEWSポストセブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”女子ゴルフ選手を待ち受ける「罰金地獄」…「4人目」への波及も噂され周囲がハラハラ
週刊ポスト
米国ではテスラ販売店への抗議活動、テスラそのものを拒否するよう呼びかける動きが高まっている(AFP=時事)
《マスク氏への批判で不買運動拡大》テスラ車というだけで落書きや破壊の標的に 在米の日本人男性の妻は付け替え用の”ホンダのロゴ”を用意した
NEWSポストセブン
大谷翔平の第一号に米メディアが“疑惑の目”(時事通信、右はホームランボールをゲットした少年)
「普通にホームランだと思った」大谷翔平“疑惑の第1号”で記念ボールゲットの親子が語った「ビデオ判定時のスタンドの雰囲気」
NEWSポストセブン
「チョコザップ」のレビューははたして…
《事業責任者を直撃》「マシンが…清掃が…」とネットでレビューされる初心者向けジム「chocoZAP」があえて店舗状況を“まる出し”するに至った背景
NEWSポストセブン
外国の方にも皇室や日本を知ってもらいたい思いがある雅子さま(2025年2月、東京・台東区。撮影/JMPA)
皇居東御苑の外国人入園者が急増、宮内庁は外国語が堪能なスタッフを募集 雅子さまの「外国の方にも皇室や日本を知ってもらいたい」という強い思いを叶える秘策
女性セブン
水原一平(左、Aflo)と「親友」デビッド・フレッチャー(右、時事通信)
《大谷翔平のチームメイトに誘われて…》水原一平・元通訳が“ギャンブルに堕ちた瞬間”、エンゼルス時代の親友がアップした「チャリティー・ポーカー」投稿
NEWSポストセブン
「ナスD」として人気を博したが…
《俺って、会社でデスクワークするのが苦手なんだよね》テレビ朝日「ナスD」が懲戒処分、517万円を不正受領 パワハラも…「彼にとって若い頃に経験したごく普通のことだったのかも」
NEWSポストセブン
姉妹のような関係だった2人
小泉今日子、中山美穂さんのお別れ会でどんな言葉を贈るのか アイドルの先輩後輩として姉妹のようだった2人、若い頃は互いの家を行き来し泥酔するまで飲み明かしたことも
女性セブン
藤子・F・不二雄作品に精通した伊藤公志さん。寺本監督からの信頼も厚い
『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』脚本家が明かす「こだわりのオマージュ」、考え抜いた「王道の展開」
NEWSポストセブン