パワーハラスメントの存在をレスリング協会も認めたとはいえ、告発側に対する風当たりは依然、強いままだという。大学進学後もレスリングを続けている選手の多くは、家族ぐるみで競技に関わっている人がほとんどだ。親や兄弟が子どもやジュニア選手の指導を続けている選手も多く、その場合、関係者にとって不利な環境は少しでも避けたい。だから、今回のパワハラについては、黙ってやり過ごしたいのが本音だと元女子選手は言う。
「今回のパワハラ告発がらみで、ジュニアの試合ではもう、審判が公平に見てくれなくなっているという話をききました。レスリングは狭い世界ですし、過去の色々なことを思い出しても、噂は本当になっていると思います。家族が教えている選手の成長を妨げるような環境は、できればつくりたくない。ダメなことはダメだし、困っている選手を助けたい気持ちもあるけれど、家族が困るのが分かっても協力できるほど、私は強くなれません」
肝心の伊調馨自身は、2020年東京五輪を目指すことについて、一度も明言していない。国民栄誉賞受賞が決まったとき、会見に同席した福田富昭レスリング協会会長が「病院へ行くといつも顔を合わせる。とにかく、休んで体を治してほしい」と言ったように、リオ五輪後は満身創痍だった。練習環境以外にも、現役続行が難しいのではないかと思わせる状態だと言われている。もし五輪5連覇を目指さないにしても、それが環境によって強いられたものではないことを祈る。