「思春期に声変わりとか背が伸びちゃって、どんどん仕事がなくなることがあったんです。それでグレちゃって、役者なんて辞めようと思ったりして。
そんな時でも日本舞踊だけは続けていたんですよね。その先生のことが好きで。当時はジーパンはいてプレスリーみたいな髪型していたから日本舞踊なんかちっとも面白いと思ってないんだけど。それがなければ、役者の道が繋がるということはなかったかもしれない。
日本舞踊をやって良かったと思います。当時は時代劇をやるにしても『時代劇の型を壊す』という方向に向かっていたんですよね。でも、基本的なものがないと壊せない。それがないと真似ごとなり感情的にやるしかないんだけど、意識的に壊すことができました。型を知っているからできたと思います。
勝新太郎さんとやる時が、まさにそうでした。勝さんはそういう基本を全て分かってらっしゃる上で壊してくる。アドリブをひっかけながらね。だから、何が出てくるか分からない。それに言葉ではなく素直に演技的に役の中で対応しないといけません。『俺がメロディでやってる時、お前は裏打ちから入ってくる。楽器でいうとベースみたいな芝居で、一拍遅れて入っている。そこが気に入っている』とよく言われました。そういう対応は、やはり日本舞踊みたいな基本を知っていないとできないんじゃないかと思います」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2018年4月27日号